2月5日、政府が9月からでもパリで試験的に薬物注射室(salle de shoot)を開設する方針を公表したものだから、右派政治家や住民の間で論争に火がつく。オランド政権による同性結婚法に次ぐ「薬物注射補助」とは! と保守陣営は激怒。
3月27日、10区区役所で開かれた説明会には住民約150人が押しかけた。薬物注射室開設には賛否半々ながら、自分の住む通りに開設されると不動産価値が下がる、麻薬ディーラーが集まるなど、不安の声は鎮まらない。ではどこに? 確定地の発表は次回説明会に持ち越された。
売春やホームレスの多いパリ10区、特に北駅周辺にいちばんドラッグ街が集中し、公衆トイレ〈サニゼット〉やカフェ、駅のトイレ、ときには道端で薬物を注射している場面にも出くわす。市内35カ所(サイトAutomates de seringuesに明示)に無料の注射器セット自動配付機があり、薬局や病院でくれるコインjetonで入手できる。モーブージュ通りにある自動配付機だけで年13万本が配付され、回収されるのは4万本。残りはトイレのくずかごや歩道に捨てられる。
現在出回っている薬物の値段は、ヘロイン1g 40€、コカイン1g 60€、パーティなどで多用される合成麻薬エクスタシー1錠6€。最近急増しているのはヘロインより安く医師の処方箋で買え保険(65%) も利くスケナンskenan(モルヒネ硫酸塩30mg 14個入4.3€)。病院などでは代替薬メタドンが使用され、服用者は12 万人にのぼる。
80年代以降、野外での野放図な薬物注射により公衆衛生が悪化したスイスは1986年に注射室を開設した。この対策はオランダ、ドイツ、スペイン、ベルギーと続き、各国とも公衆衛生・治安、注射器によるエイズ感染予防、オーバードース(過剰摂取)による死者が半減、麻薬中毒者の管理面でも成果を上げている。オランダでは早くからコーヒーショップでの大麻(カナビス)などナチュラルドラッグの販売を公認し、フランス政府は批判の目を向けてきた。フランスは40年前に敷かれた麻薬禁止法に固執する。禁止法の裏をかき、マルセイユなどでマフィア化する麻薬ディーラー同士の縄張り争いの銃撃戦が絶えない。
今日フランスの若者のカナビス喫煙量は欧州一。17歳の42%が喫煙を一度は経験し、そのうちの7.3%は常用。パーティなどで高校生・大学生が雰囲気にのまれて吸っているのはカナビス(1g 6.5€前後)。国民の中で過去12カ月以内に喫煙した人は約400万人、常用者は120万人にのぼる。約20万人(5%)はカナビスを自家栽培しているという。
スペインに20年前からあるカナビスの会員制生協「カナビス・ソーシャル・クラブCSC」は、違法ながらフランスにもすでに425クラブあり利用者は約5 千人にのぼる。市民のカナビスの常用化に押され、昨年暮、ペイヨン教育相が「そろそろドラッグ新法案を構想すべきでは」ともらしただけでエロー首相に口止めされた。2年程前、国が管理できるカナビス専売公社を、と提案したのはヴァイアン18区社会党区長だった。ドラッグのオーバードース死亡者は年約300人、注射器によるエイズ感染死約75 人。それどころでないのは、アルコール中毒死者数で4万5千人!(君)