11月から開催中のダリ展は、ポンピドゥセンターが開館時間を延長するほどの盛況ぶりだ。才能も世俗的な部分も含め、サルヴァドール・ダリ(1904-89)の全ぼうが見られる。「ダリってこんな人だったの」とびっくりする人も多いだろう。
10代の作品を見ると、ダリも普通の絵を書いていた時期があったのだ、とちょっとほっとする。その向かいで上映されているのは、ルイス・ブニュエルと脚本を共同執筆したシュルレアリスムの傑作映画「アンダルシアの犬」(1929)だ。その後のダリの才能と傾向がここに詰まっている。
シュルレアリスムの絵の中の性的妄想のさく裂に仰天させられるが、大量に見ていくと驚かなくなる。ダリには他人には入っていけない独自の思考回路があり、作品はダリワールドの中で完結していて、見る人の意識に深く関わらないからだ。
ヒットラー、レーニンを描いた作品も、「こんなダリもあったのか」と思わせる見ものだ。スペインの独裁者フランコを公然と支持していたダリは権力が大好きだった。しかし、これらの絵から政治的なメッセージは見えてこない。政治も素材として「ダリワールド」に取り込まれたかに見える。
「ファシスト的志向」が、シュルレアリスムの首領、ブルトンから嫌われて、ダリは1938年にシュルレアリストグループから除名されるのだが、理論的で運動としてのシュルレアリストだったブルトンらと違い、ダリはシュルレアリスムという言葉ができる以前からの天性のシュルレアリストだった。その意味で「シュルレアリスムは私だ」というダリの言葉は、彼の本質を突いている。
ダリの名前のアナグラムでブルトンから「アヴィヴァ・ダラー(ドルの亡者)」と揶揄(やゆ)されたように、商業主義に乗って大いに儲けた。マネージャーは10歳年上の妻ガラだ。展覧会では、ガラと一緒にパフォーマンスをするダリの姿がビデオで見られる。ガラは「ダリのミューズ(インスピレーションを与える美神)」と言われているが、実際は、一般には無名だったダリを世界的な画家に育て上げた「ピグマリオン」だ。ガラなくしてダリは存在しない。二人羽織のような夫婦が作り上げた世界。これは、ダリに対するガラの影響力を確認する展覧会でもある。(羽)
SALVADOR DALI Étude pour « Le Miel est plus douce
que le sang » [sic], 1926 Huile sur bois – 37,8 x 46,2 cm
Fundacio Gala-Salvador Dali, Figueres
© Salvador Dali, Fundacio Gala-Salvador Dali /Adagp, Figueres, Paris, 2012
ポンピドゥセンター:3月25日迄(火休)
ダリ展のみ23h迄。日曜9h30から。3/16までポンピドゥセンター会員と前売券所持者のみ土曜9h30から入館可。