●ナビル・アユチ監督インタビュー
2003年5月16日、カサブランカで同時連続爆弾テロが発生し、20代の若い自爆犯を含む41人が死亡。本事件を下敷きにした映画『Les Chevaux de Dieu』は、実行犯となった青年の軌跡に迫る力作。監督はフランス生まれのモロッコ人、ナビル・アユチ。モロッコを代表する実力派で、本作もカンヌ映画祭の〈ある視点〉部門でお披露目された。2月20日にフランスで公開となるこの機会に、日本には紹介されにくいマグレブ系監督の視座にも、しっかりと目を開きたい。
制作のモチベーションは?
アメリカ映画に顕著ですが、イスラーム原理主義が描かれる際、複雑な人間の真実までは掘り下げず、単純化したスペクタクルの道具として扱われる場合が多く不満でした。だからモロッコ人である私が事件を語る必要性を感じたのです。伝統的にモロッコは寛容な国。長らくアラブ人、ベルベル人、ユダヤ人らが共存し、2003年のテロのような事件はまれでした。実行犯がアフガニスタンやイラクから来たスペシャリストではなく、スラム街出身の青年だったことも衝撃であり、大きな傷痕を残しました。
スラム街の子どもはあらゆる形の暴力にさらされていますね。
暴力は現実の反射です。まず彼らは肉体的、精神的に閉じ込められていて、スラム街から出る術がなく、外の世界を知らない。同時に文化を享受できる環境にないため、精神の自由もない。映画館も劇場も皆無です。愛されることが必要な幼少時、家族や国が愛する役目を怠ると、子どもを暴力に駆り立てることもあるでしょう。「カミカゼ」に加わった子どもの家庭環境を調べると、父がいないといった「権威の不在」が多く見受けられました。彼らの前にイスラームのCaîd(指導者)が現れると、強力な権威になりえます。
主演のふたりが素人と知り、驚きました。
ヤシーヌとハミド役の青年は、実際にスラム街で生まれ育ち、現在も生活している実の兄弟。それぞれ違った演技を見せてくれました。一人はカリスマ的で思慮深く、もう一人は野性味を感じさせるといった具合。相応しい俳優を見つけるまで撮影はしない、と決めていたので、数百人以上と面談し、ようやく巡り会えた二人なのです。(聞き手:瑞)