エドワード・ホッパー(1882-1967)のフランス初の大回顧展だ。ほとんどの作品がアメリカの美術館からの貸し出しで、フランスでこれほど多くのホッパーが見られることはまずない。この秋、パリ美術界の最大の収穫である。どのようにしてホッパー独自の作風にたどりつき、「ホッパーになった」かがよくわかる。
ホッパーはニューヨーク美術学校で学んだ後、1906年から10年まで断続的にパリに滞在し、ヨーロッパ絵画の影響を受けた。アメリカに戻ってからは、当時の多くの画家同様、生活のために雑誌や広告のイラストレーターになった。当時のイラストを見ると、上手いし、味もある。イラストレーターとしても成功しただろうが、この商業的な仕事が嫌で仕方がなく、売れなくても画家として生きていくことをあきらめなかった。
最初の成功は42歳のとき。水彩画展が好評で、このときから描きたい絵だけでやっていけるようになった。皮肉なことに、これらの水彩画には、イラストレーターとしての彼の腕前がいかんなく発揮されている。そこが評判を取った所以かもしれない。この少し前の頃の版画には、後の油彩の不穏な雰囲気があり、彼のスタイルが出始めている。周りに人気のない『The Lonely House ぽつんと建っている家』の端では、2人の人が何かを埋めているように見え、犯罪のにおいがする。
ホッパーの絵が映画に与えた影響は大きい。それは、たった1軒の家からでもストーリーが立ちのぼってくるからだ。『Lighthouse Hill 灯台の丘』はヒッチコックの『サイコ』の家を彷彿(ほうふつ)させるし、『Gas ガソリンスタンド』は、キューブリックの『アイズ・ワイド・シャット』で主人公の医者が上流社会の秘密パーティに行く途中に通る道にあるガソリンスタンドのようだ。
不思議な光の効果もホッパーの絵の特徴だ。『House at Dusk 夕暮れの家』の建物から出る光は、建物の壁さえ内部から照らしているように見える。夕暮れというのに、空は妙に明るい。その下には暗い森がある。何かが起こりそうな静けさだ。現実にありそうでいて、ない風景には強烈な吸引力がある。(羽)
Grand Palais : 3 av. du Général Eisenhower 8e
www.grandpalais.fr 1月28日迄 。火休。
写真:Edward Hopper “House at Dusk”,1935
Richmond, Virginia Museum of Fine Arts;
John Barton Payne Fund
© Virginia Museum of Fine Arts