「牛も僕らも穏やかに暮らすからこそ、 安定した品質の牛乳が生まれる」
毎朝、前日に牛たちが食べた餌(えさ)の状況を点検することから酪農家の一日が始まる。食べた量などで40頭の牛の健康を把握し、分配する餌を調合し、牧場に出かけることになる。
大事なパートナーの愛犬イリスが、ほえながら牛を集める。ガエタンさんは、独特なかけ声をかけ、背中をなでながら、一列に並ばせた牛を、牛舎へ先導していく。そして隣の牛舎で400リットルの乳搾りの始まりだ。乳首の汚れをきれいに拭き取り、搾乳機を取り付ける。牛乳はチューブを通って牛乳缶に集められる。「うちでは1970年代から乳搾りの機械を導入しました。しかし牛によっては乳が出にくい日もあります。そういう場合は私が乳房を触って興奮させ出やすくさせます。一頭一頭健康状態が異なるので、搾る量を適切に調整する必要があります。自分の手で搾ることもあります」。月に一回検査が入り、搾った牛乳の成分、質を調べる。ガエタンさんの牛乳は、さらに年に2回コントロールが入るBIOに認定されている。
牛乳の加工製品は女性陣が腕を振るう。奥さんのナタリーさんと、今年4月から研修生として働きだしたアレクシアさんの二人で、翌週分のフロマージュブラン、生クリーム、バター、そして熟成させるチーズ〈トム〉を準備する。午前8時から午後17時まで、休みなしの作業だ。まず搾り立ての牛乳をろ過し、乳脂肪分を調整する機械に入れ、それぞれの加工用途に合わせ割合を変える。巨大なタッパーウェアに入った牛乳は、20度の温度の中で一日置くことにより豆腐のようになる。個別の容器に分け、水分を落とせばフロマージュブランのでき上がりだ。手作りバターは型に入れず、布巾に包んで形を整え、牧場のマークが入った木製のスタンプを押す。チーズにする時は丸い型に入れ、チーズ圧縮器にかける。熟成具合を管理するのはガエタンさんの仕事だ。
酪農家は、牧場の管理も大切な仕事である。季節によって農耕作業が変わる。春には牛たちが食べる穀物を育て、秋にはトラクターを使って牧草を刈り、金属の型に入れて冬の間の餌になる干し草の束を作る。「トウモロコシを餌に混ぜれば牛はよく寝ます。しかし私は牛も牧場でよく動き、良質の乳が出るように草だけにしています」。牧場を囲う柵は手作り。こわれれば自ら鋼(はがね)加工をして修理する。
「以前は雄牛を一頭を飼っていましたが、一頭だけで40頭の雌牛に種をつけるのは大変でしたね。今は他の酪農家のところへ種もらいに行きます。そして牛に赤ちゃんが生まれれば、酪農協会に出生届けを出し登録。その時名前をつけるのです」。家畜は豚3匹に鶏数羽。製品にできない牛乳を水がわりに飲みすくすく育つ。
44歳のガエタンさんには3人の子どもがいる。「私は生まれた時から45ヘクタールあるこの牧場で育ちました。13、14歳で学校の許可を得、午前中牧場で働いてから学校に行ったものです。息子も私の仕事を受け継ぐでしょう。牛も私たちも、この穏やかな牧場での暮らしを営むことが、良質な牛乳につながると思います」
フランスを支える第一次産業の底力をみた思いがした。