引っ越してから数カ月、定年退職の日々を庭仕事などで楽しく送っている隣人夫婦を夕食に招待することにした。ご主人のアルノルドさんが大のスコットランド産のウイスキー好きで、「シングルモルトは食後がいちばん」と言うのを聞いている。そこでそのウイスキーに合うように、デザートにはちょっと塩味がきいているチョコレートのタルトを作ることにした。
このタルトはサブレ生地を使うが、時間のない人はでき合いのものを買ってくれば簡単。別に宣伝するわけではないが、〈Herta〉というメーカーのものは生地が厚めでおすすめ。中に入るチョコレートのたねには火を通さないので、まずその生地を空焼きにしなければいけない。オーブンの目盛りを160度に合わせて点火。バターを塗っておいた型に生地をのせ、手で縁をしっかりとおさえつけ、底をフォークで突っつく。パイ生地が包んであった硫酸紙を型より少々大きめに切って敷き、その上に生地が盛り上がらないように乾燥白インゲン豆1キロを均等に入れる。これをオーブンで15分ちょっと焼く。 さらにインゲン豆と硫酸紙をのぞいて、底に軽い焼き色がつくまで8分ほど焼く。オーブンから出して冷ましておく。
生地を焼いている間に、チョコレートを包丁できざみながら細かくする。これをボウルにとり、その上からさいの目に切ってから室温で柔らかくしておいたバター60グラムを散らす。ボクは有塩バターのみだが、塩味がきつすぎるという人は無塩と半々にすればいい。生クリームと砂糖を鍋にとって、弱火にかける。沸騰したら、これをチョコレートに少しずつ、絶えず泡立て器で混ぜ合せながら、加えていく。均一に混じり合ったら、最後に水を大さじ2杯加えて混ぜ合せる。これを冷めた生地に流し入れ、2時間ほど涼しいところで寝かせ、チョコレートのたねを固まらせる。
メインが終わったところで、このチョコレートタルトを切り分けて食卓に。アルノルドさんに「シングルモルトはいかが」と声をかけることを忘れてはいけない!(真)
サブレ生地1枚、チョコレート(カカオ70%以上)240g、
有塩バター60g+型に塗る分15g、砂糖大さじ1杯、
生クリームcrème épaisse乳脂肪30%のもの400cc、水少々。
●mousse au chocolat
カカオ70%くらいの、なるべく良質のチョコレート150グラムをできるだけ細かくして、小鍋にとって湯せんにかける。溶け始めたら小さく切り分けたバター80グラムも加える。弱火。滑らかで流れるようなポマード状になったら火から下ろす。卵4個を割って白身と黄身に分ける。白身はボウルにとり、砂糖大さじ1杯を加えて、泡立て器を使って固めに泡立てる。丁寧に割りほぐした黄身は、少しずつチョコレートに混ぜ入れる。ここへ最初は大さじ2杯分の泡立てた白身を加えて素早く混ぜ合わせて、チョコレートを少し柔らかめにする。次に残りの白身を加え、静かに大きく混ぜ合わせるようにしながら、全体が均一になったら、食卓に出すガラスの器などに移し、ラップでおおって冷蔵庫に。少なくとも4時間は置いておきたい。
●パイ生地の空焼用インゲン豆
今回のチョコレートタルトとかイチゴのタルトのように、タルトの中身に火を通さない時は、パイ生地をあらかじめ焼いておく必要がある。そんな時、生地が盛り上がらないように白インゲンなどの重しを使う。別に白インゲンである必要はなく、アズキでも何でもいいのだが安い豆を使うことにしたい。というのも一度空焼きに使った豆は乾燥しすぎて、食用にはむかないからだ。冷めてからフタのできる瓶に入れて、空焼き専用に保存したい。ボクは数年来、同じ豆を使っているが、何回も使っているうちに豆が軽くなってくるので、時々新しい豆を足してあげることが肝心だ。硫酸紙を生地の上に敷いてから豆を置く時は、型の隅々までいきわたるように、指で押さえるようにする。
●pelle à tarte
タルトはふつう六つとか八つに三角形に切り分けるが、そのタルトをサービスする時に欠かせないのが、pelle à tarteと呼ばれる、やはり三角形の、ほとんどがステンレス製のヘラ。このヘラを生地の下に差し入れた時、切り分けたタルトの隣の分まではみださないので、きれいに皿に移すことができる。