ポール・クローデルの『真昼に分かつ』の女主人公イゼのモデルとなった女性とは誰だろうとずっと気になっていた。家族と共に中国に行く船上でフランス領事クローデルと知り合い、恋愛関係に陥った人妻だ。
彼の子を宿したままベルギーに渡り、別の男性と結婚。二人は13年後に再会した。なんとも身勝手な女性に聞こえるが、本書を読むと、彼女の側にもそれなりの事情と理由があったことがわかる。この女性、ロザリー・スチボール=リルスカはポーランド人の父とイギリス人の母の間にウィーンで生まれ、フランスで育った。裕福な家庭に生まれながら、夫の破産や一家離散を経験し、人生の辛酸もなめてきた。当時の女性が受けてきた束縛がわかり、女性史としても面白い。
著者テレーズ・ムールヴァは、クローデル研究家。クローデルとロザリーの娘ルイーズの協力を得てロザリーの生涯を研究し、本書を執筆した。『真昼に分かつ』は、彼女との宿命の恋の痛手に心理的決着をつけるために書かれたという。しかし、内情を知ると、彼女の気持ちが離れたのも無理はない、と思われるようなクローデルの身勝手さが浮かび上がってくる。(羽)
テレーズ・ムールヴァ著/湯原かの子訳
原書房2011年。2400円+税。
La Passion de Claudel La vie de Rosalie Ścibor-Rylska” Thérèse Mourlevat, Pygmalion 2001