前号の「大統領2候補の私生活」という記事では「大統領内縁夫人」などと「内縁」が繰り返し繰り返し登場した。「内縁」というコトバは、裁判の時とか、新聞での犯罪記事などでたとえば「○○さん(35)は、帰宅したところを内縁の妻△△(33)に刺されて死亡」などと見かけることがほとんどだから、ちょっと奇異な感じを受けたのはボクだけだろうか? 男女間に大きな差別があった戦前の社会状況も思い出させるので、「内縁」にはどうしても暗い感じがつきまとう。そういうこともあって、「内縁」のかわりに「事実婚」、「パートナー」というコトバが使われるようになってきている。この「内縁」、フランス語では何と言うのだろう?
以前は「concubinage」という表現が「内縁関係」という意味でよく使われていた。「内縁の夫」は「concubin」、「内縁の妻」は「concubine」。「尻を共にする」という意味のラテン語が語源であるから、自ずと「セックスパートナー」という意味が強い。チャン・イーモウ監督の名作『紅夢』の仏題は『Epouses et concubines』で、この場合の「concubine」は「めかけ」という意味。最近女性の社会進出が目覚ましくなるにつれ、この「concubinage」はすたれている。
かわりに,現在よく使われるのは「compagnon」、「compagne」。語源的には「パンを分かち合う者」という意味。たとえば今回の写真には「François Hollande et sa compagne Valérie Trierweiller」というキャプションが付くはずだ。「内縁関係」に対応する表現は「union libre」。「union légale(法的に認められた関係=婚姻関係)」と区別する表現で「法的拘束を受けない関係」といった意味でしかないが、「libre」というのはやはり響きが明るい。
そういうボクらも成人に達した子供が二人いて30年近い「union libre」。同じようなケースが周りにも多い。最近初めて子供ができた30代後半の友人カップルも「union libre」。著名な政治家では、重要な大臣職を務めた民衆運動連合ミシェル・アリオ=マリ(UMP)がいる。 彼女の「compagnon」は、元国民議会議長のパトリック・オリエ。アルノー・モントブール(社会党リーダーの一人)の「compagne」は、ジャーナリストのオードレ・ピュルヴァール…。フランスでは、結婚しているかどうかは政治家の実力とは関係ない、という考え方が一般的なので、一緒に公式の場に出かけて行く姿がふつうにTVの画面に映ったりする。
大統領に選ばれたばかりのオランドは、壇上にいた「compagne」のヴァレリーにキス。新大統領には、外交儀礼にもかかわらず、外国への正式訪問にもこの「内縁の妻」を連れて行ってほしいなあ。そして、彼女が、「ジャーナリストの仕事が忙しいから行けないわ」と言ったりしたら、これこそ今のカップルで、素敵だなあ、と思う。(真)