2004年、自分の生い立ちを赤裸々につづった『ターネーション』という映画で話題をさらったアメリカのジョナサン・カウェット監督。その映画は彼が8歳の頃から8ミリで撮りためていた映像を編集したもので、ガス・ヴァン・サントやジョン・キャメロン・ミッチェルといった先輩監督に見込まれて完成にこぎ着けた。何が彼らを、そして我々観客を熱くしたのか?
ジョナサンは、とても辛い子供時代を送っている。彼は映画を撮ることでそれを乗り切った。必然性と必要性に裏打ちされた映像は、彼の衝撃の半生と、バックグラウンドである70~80年代ポップカルチャーと相まって、観る者の目を耳を心をわしづかみにしたのだ。5月2日公開の『Walk away Renée』では、大人になったジョナサンが、母レニーのこと、自分と彼女のことを映し出す。『ターネーション』の映像も挿入される。レニーは幸福に育った美しい少女だったけど転落事故にあってから薬漬けになって、ジョナサンを出産後は精神病院を転々とする人生になってしまった。それは今も続いている。だからジョナサンはレニーに育てられたわけではない。なのに、不思議なことに、この母と息子は深い愛で結ばれている。人生の残酷さと救いのようなものが、この映画から放たれる。自分の役を自分がカメラの前で演じる。フィクションとドキュメンタリーの境界線上に立っている映画だ。レニーのこともジョナサンのことも好きになる人なつっこい映画だ。
奇しくも同時期に、母と子の関係を描く映画が他に2本ある。公開されたばかりのチリ映画『Les Vieux Chats 』(セバスチャン・シルバ&ペドロ・ペラノ共同監督)と5月9日公開のフランス映画『Maman』(アレキサンドラ・ルクレール監督)。両方ともフィクションで、母に愛されずに育ったことを恨みに思っている娘が、その決着をつけようと母に迫る話だ。頭で組み立てた映画は、生理的に生まれた映画より浅薄なものであると感じた。(吉)