食を大事にした城主の台所をのぞく。
サンドの館にある台所をのぞいてみた。中央には、存在感のある、ニレの木のテーブルがどしんと構えている。優に10cmは厚さがあるこの大テーブルは、時にはまな板代わりとしても使われていたとか。この館で働く約10人の使用人は、この台所で食事をした。住み込みの使用人の部屋は台所の上にあり、その部屋に続く階段跡も当時のままに残っている。
テーブル脇に黒く光っているのは、鉄製のこれまた重々しい調理台。これは、1850年にサンド自身が買い求めたもの。すばらしい火力を誇る調理台としてはもちろん、湯をわかす道具としても活躍した。蒸気は床下を通って屋外に排出されるシステムになっていたというのだから、その時代の人間でなくてもそのモダンなつくりに驚いてしまう。食品をおさめるためのオークの棚は、中央のテーブルと同様に余計な飾りはなく、骨太なのがいい。どこまでもシンプルで力強い田舎風だ。これらの多くは、この地方の職人たちがつくったものだという。
壁際にはぴかぴかに磨かれた大小の銅鍋がかかり、まるで高級レストラン並み。棚の上にはサンド自らが使ったというコンフィチュール用の平たい鍋、そして愛人だったショパンが好んだというココアをつくるためのポットが残っている。サンド自身も、チョコレートには目がなかったそう。
サンドはフェミニスト?
退屈な夫に見切りをつけてパリでひとり暮らしをはじめたサンドは、町歩きに便利だから、という理由でズボンを身につけ、葉巻きをふかし、「ジョルジュ」という男性名を名乗って処女作を発表した。当時の女性に課せられたあらゆる型からはみ出したようなサンドだったが、女性の参政権を求めるフェミニストのグループたちと交わることはなかった。不平等な結婚制度に苦しんでいたサンドは、まずは離婚が認められるようになること、そして男女ともに教育を受けられるようになる社会を唱えた。
ヴァランセや セル・シュル・シェールなど、 新鮮なヤギ乳のチーズが この地の特産品だ。
ヴァランセ