国民戦線党FN党首マリーヌ・ルペンの人気が高まる中、サルコジ大統領以上に神経をとがらせているのは忠臣ゲアン内務相。FN勢力に抗するには彼女の上をいく移民排斥政策しかない。
昨年9月6日付官報は、学生ビザを得るために留学生が用意すべき最低生活費は1982年以来、月460ユーロとされてきたが、一挙に620ユーロに引き上げる政令を公表。留学生も住居手当(約200€まで)を得られるが、家賃高騰の中で地方出の学生も共同賃貸が増えており、開発途上国からのフランス留学は高嶺の花になりつつある。
全国の大学生230万人のうち留学生は28万人(12%)で米・英国に次ぎ、毎年6万6千人が登録している。そのうちのかなりが学生ビザを得て不法労働についているとみるゲアン内相は、EU圏以外からの新留学生を最低2万人減らし、彼らの卒業後のフランスでの就労も抑制する意向(すでに1千人余を拒否)。昨年5 月31日付通達により、学生滞在許可証から一般滞在許可証への変更もほとんど不可能になっている。
外国人留学生の卒業後の在留率はカナダが一番高く33%、フランス32%、ドイツ26%、英国25%、スペイン19%…。モロッコやチュニジアなどから来ている学生はフランスでディプロムを取得しても祖国での就職口はほとんど皆無。「アラブ諸国の春」に仏軍隊を送り込むだけでは、これらの国との真の関係は築かれないだろう。
ゲアン通達は、外国人大卒者を歓迎するカナダやオーストラリアからも強い批判を浴びており、〈オーストラリアン〉紙などは「留学生排除政策は欧州諸国での右翼勢力の高まりの表れ」と危惧する。ローザンヌ連邦理工科大学アビシェール学長も「シリコンバレーの大半の研究者は、スタンフォード大学やバークレー卒のインド人や外国人技術者からなっている」と、フランスの頭脳の反グローバル化政策を嘆く。
外国人エリート排除政策に対し60人余の教授や識者・文化人が「頭脳は多色カラー」、ゲアン通達は「倫理的、政治的に危険であり経済的にも非常識」と12月10日、撤回要求の署名運動を開始した。経営陣も反対しフィヨン首相は「マスター取得後の初就職は可能」とにごす。1月4 日ゲアン内相は県知事宛に「滞在を許す専門技能者の選択は県庁に任せる」という通達を送付した。抑制姿勢は5月31日通達と何ら変わらず、反対者たちは外国人学生への連帯行動を強化。
一方、長年フランス人学生が隣国ベルギーの医療補助・看護課程に押し寄せたのに対し、ベルギーは非居住学生の受け入れを抽選式クオータ制によって30%に制限してきたが昨年6月、憲法評議会がクオータ制は違法とみなしたためこの制限策を廃止した。そのためか昨年以来フランスからの通学者が急増。例えば、発音矯正課程専攻の100人の半数、足学専門課程も51人のうちの40人はフランスから通っている。彼らはベルギーで学んだ後、自国で就職している。
グローバル化の波にのり、2015年には世界の留学生数が2億人に達すると予想される。ゲアン通達は時代錯誤であるばかりか、FN支持票を奪うためだけの選挙戦術だとしたら、4月の大統領選前のせこい作戦と言わざるをえない。(君)