2001-9-11「ツインタワー爆破」テロが西洋とイスラーム圏の対立を生んだといえるなら、10年後、不思議に「1」が並ぶ2011-3-11「福島原発事故」が、核エネルギーに依存する欧米諸国に及ぼした影響は深刻だ。エコロジー勢力の強いドイツのメルケル首相は、2022年までに17基を閉鎖する脱原発方針を宣言した。米国・スイスも原発推進に歯止めをかけ、イタリアはその開発を完全に放棄した。また日本を含め、仏国営アレバ社への核燃料再処理契約を更新しない国が続出している。
11月24日、ノルマンディーのラ・アーグ核燃料再処理場から旧独境のゴルレーベンに1年半分の放射性廃棄物14㌧を詰めた貯蔵容器11個を積んだ輸送列車が時速80 kmで進んだが所々でグリーンピース団体他数百人が機動隊と衝突し妨害行動を続けた。昨年は放射性廃棄物輸送への抗議行動にドイツ国内で5万人が参加。ゴルレーベンには2017年までに英国の再処理場セラフィールドからも貯蔵容器21個分の廃棄物が返送される予定。当地はへき地で地質が塩岩層のため廃棄物貯蔵地に選ばれたが、最近は水分・ガスの流出がみられ、独環境庁は他の貯蔵地探しに懸命だ。
次期大統領選オランド社会党候補は、欧州エコロジー・緑の党と妥協に妥協を重ね、当選後は2025年までに原発58基を24基に減らし、核エネルギーを現在の74%から50%に下げる公約を掲げる。一方、原発をフランスが誇る主要産業とみなすサルコジ大統領は11月25日、中央部トリカスタン原発でも「ロウソクで暮らす中世時代には戻れない」と原発擁護派の旗手を自認する。
しかし電力仏連合UFE の計算(11/25: Le Monde)によると、現在稼動中の原発を2030年まで保持するとしたら定期検査・維持費などに3220億ユーロは必要、核エネルギーを50%に下げても3820億ユーロ、さらに20%に下げるなら4340 億ユーロと、現状維持にも脱原発にも莫大な投資が必要。が、原発擁護派は核エネルギーを20%に下げると逆に二酸化炭素の排出量が現在の3 倍になり温暖化に加担し、電気代も上がり、原発関連被雇用者41万人はどうなるのかと地元商店主や労組の脱原発への抵抗は強固だ。それに対し欧州エコロジー・緑の党のエヴァ・ジョリ大統領候補は、核エネルギーに替わる太陽熱・風力・水力など再生可能な新エネルギー開発に伴う労働力の需要増加(ドイツは24万人雇用)を力説する。
「福島」の直撃を受けたアレバ社は、昨年の赤字額4億230万ユーロに加えて核燃料再処理契約が半減し、さらに赤字財政が悪化するのは明らか。2013年には5億ユーロ、2015 年までに毎年7億5千万ユーロの経費節減を迫られる。11月21日付AFP通信によると、6月にアンヌ・ローベルジョン社長解任後就任したウルセル社長は、2012〜16年の投資額を120億ユーロから70億ユーロに減らし、社員38 000人中2700〜2900人(仏1300人、独1200人)の削減計画を構想中。
ローベルジョン前社長は福島に汚染処理システムを提供したが設備が不十分だったとかでアレバ社の悪評を招いたことで更迭されたらしい。国営企業(85%)の社長は大統領に煙たがれたら最後…の内部事情はさておき、核エネルギーか脱原発かの選択は次期大統領の決断による。(君)