フィリップさんの後継者、直也さん ・ディプロム・一問一答
フィリップさんのアトリエで働き始めて約10年という三宅直也さん。自らもトロンボーンを演奏する彼は、楽器の魅力に引き込まれ、大学卒業後、日本の、楽器のリペア専門学校へ。そしてフランスに来てからは、この国で唯一、楽器のリペアを学ぶことができるITEMM (Institut technologique européen des métiers de la musique 音楽関連職の欧州科学技術研究所) へ入学。その情熱がフィリップさんのアトリエへとつながった。
「学業修了のディプロムに必要な3週間の研修先を、学校側が見つけてくれたのだが、そこがフィリップさんのアトリエだった」。そして卒業後、再びフィリップさんに弟子入りし、一年間はただ働き、がむしゃらに働いたという。
「ナオヤとの出会いは運命的だった。ボクらの関係は師弟関係ではなく、友情関係。お互いが尊敬しあっているからね。ナオヤのようにAからZまで一人でやれる職人は希少だ。ここでの10年間の経験が翼となり、大きく羽ばたくことを僕は確信しています」とフィリップさん。
楽器製造、修理職人として必要なディプロム
楽器製造、修理職人として必要なディプロムは、CAP(Certificat d’aptitude professionnelle 職業適性証明書)や BMA(Brevet des métiers d’art 工芸職人免状)。前者では実技、英語(高校一年生程度)、音響学、仏語(読解能力)、図面能力、楽器修理理論など多岐にわたる試験科目をクリアしなければならない。また、Chambre des métiers et de l’artisanat (通商工芸会議所)で法律から銀行との付き合い方まで、個人経営に必要な研修をうける。
しかしフィリップさんはいう。「ディプロムは無意味だ。経験と修練、技術を磨き、職人一人一人の心構えが大切だ」
ロウさんと一問一答
この業界の現状は?
価格破壊が進んで耐久性や品質の追及が失われている。ライバルはヨーロッパだけでなく、国際的な範囲に及んでいる。ただ、お互いの技術の向上となるライバルならいいのだが、実際はそうでもない。
初めて携わった楽器は何ですか。
フランスの伝統打楽器の金属製の胴体製造。
仕事上の失敗などありますか?
でき上がった楽器をお客に渡したのだが、音が鳴らない! 原因はベル(管楽器の開口部)の奥に球状の凹み直しの道具を入れたままにしていた。40年以上もやっていれば色々な失敗談がある。
退職後はどうされますか。
大好きな庭いじり、アトリエを開放しより多くの方にこの仕事を見てもらう時間、「フランスの人間国宝とその弟子たちの会」というアソシエーションのための時間。そして、愛する奥さんとパリを自転車で走りたいね。
フィリエール、特注の管を作る時に使う。
太鼓のボディーを作る過程で 溶接のために固定する。
木製、もしくは鋼鉄製ベル(金管楽器の開口部)製造用工具。
打楽器の皮(ヘッド)の素材裁断用の型番。
きれいに並んだ重りたち。