
たまたまイギリスで休暇を過ごしている最中にロンドンの暴動が勃発した。暴動発生のニュースを聞いた英国北部からロンドンに向けて南下。8月8日夜に着いたロンドンは思いのほか静かだった。
この暴動は、4日にロンドン北部のトッテナムで黒人男性マーク・ダガンさん(29)が警官に射殺されたのを受け、6日に警察署前で行われていた抗議デモの参加者の一部が暴徒化したことに端を発する。暴徒らは車に放火し、店を破壊して商品を略奪した。7、8日にはロンドンの北部や南部の各地に飛び火し、トッテナムだけでなく、南部のペクナムやクロイドンでも建物が全焼するなどの異常事態になった。ペクナムからそう遠くない地区に住むイギリス人の友人はテレビの映像を見てぼう然とし言葉を失っていた。
ロンドンの中心街にあるオックスフォード・サーカスやカムデンタウンなどでも破壊行為があったようだが、9日に出かけたコヴェントガーデン地区では店はすべて営業しており、パブはにぎわい、暴動の影さえ感じられなかった。しかし、南部の友人宅からバスで中心街に向かう途中にある、治安が悪いとされる地区では、商店がシャッターを閉めたり、ウインドーや入り口に板を打ち付けるなどして軒並み閉店していた。この日は通常の3倍近い1600人の警官がロンドン全域に配備されたとかで、やたらと警官の姿が目についた。
8日からは暴動はバーミンガム、リバプール、ブリストルなどの地方都市に飛び火して10日頃まで続き、合計で死者5人を出し、21日までに1838人が逮捕され(うち未成年者396人)、うち1049人が起訴された。暴徒を早急な裁判にかけて厳罰に処するとしたキャメロン首相の言葉通り、実際には起きなかった暴動を呼びかけるメッセージを配信しただけで、禁固4年の刑に処された者もいる。
トッテナムでは、1985年に、警察の家宅捜索を受けた際に49歳の黒人女性が心臓発作で亡くなったことをきっかけに暴動が発生している。こういう黒人コミュニティの警察への不信感が下地にある上に、若者の失業率が高い地区でもある。英国では近年、緊縮財政による福祉関係予算の縮小や教育費の高騰によって、機会均等は絵に描いた餅になり、貧富の差が広がっていると大衆は感じているようだ。
英政府はこの暴動を「まったくの単純な犯罪」と決め付け、破壊行為を行う「ギャング」を一掃するとの強硬姿勢を示している。しかし、4日の黒人男性射殺事件の詳細を未だに明らかにせず、暴徒に異常ともいえる重罪を科すだけでは片手落ちという気がする。最初は事件の詳細を一切伏せ、次には撃ち合いがあったとし、後になってダガンさんが発砲した証拠はないと発表するなど、警察が事件を隠蔽(いんぺい)しているような印象すら受ける。
移民系の貧しい地区の若者が警察と対立し、暴動に発展するという構図はフランスにもある。労働力不足の時代に大量の移民を呼び寄せた欧州は、今や不況のためにその労働力を持てあまし気味だ。極右の台頭やノルウェーの事件を考え合わせても、欧州は病んでいる、という思いを強くさせる。(し)

ガーディアン紙の表紙

ロンドン南部ブリクストン地区

ロンドン南部ブリクストン地区
