最近マルセイユやパリ近郊、特にセーヌ・サンドニ県のセヴラン市で麻薬ディーラー同士の縄張り争いの銃撃戦が起きており、幼稚園児などは園庭で遊ぶのも危険とされている。公団アパート入口にたむろする若者ディーラーたちは月1万ユーロにのぼる麻薬密売をし、マフィア化が進んでいるという。人口5万人の同市ガティニョン市長(エコロジー派)は6月1日、「24 時間態勢の国連軍を動員すべき」「麻薬の密売を根絶させるため大麻の合法化を」と提案し波紋を投じた。さらにヴァイヤンPS元内相は大麻を一部国産化し、タバコと同様に国が市販まで管理すべきと大麻の合法化構想を発表した。
6月2日、コフィ・アナン前国連事務総長を始めカルドーゾ元ブラジル大統領、ゼディージョ元メキシコ大統領…ら19 人からなる「薬剤政策グローバル委員会」が報告書を公表した。「薬物に対する戦争は破綻した」とし、今後は薬物依存症者への医療的薬剤とみなすべきと薬物摂取の非犯罪化を奨励。が、オバマ米大統領は「薬物の合法化は公衆衛生と治安をさらに悪化させる」と報告書に反対する。米国はニクソン時代から40年来、南米諸国の麻薬マフィアの掃討戦に1兆ドルを費やしている。
イタリアやスペイン、ポルトガル、チェコなどは大麻の摂取を犯罪とはみなさず、スイスはヘロイン依存症者に医療目的で配付。ドイツ、オーストリア、ハンガリーは麻薬法違反者の拘禁を廃止した。オランダはコーヒーショップでのソフトドラッグの市販を認めるが外国人への販売を禁止している。一方ポルトガルは2000年法により薬物の購入・所有・個人使用を認可して以来、それ以前に10 万人いたヘロイン中毒者が4万人に、15-19歳層のドラッグ利用者が10.8%から8.6%に減少したという実利的成果を示している。
フランスはEU諸国の中で麻薬規制が一番厳しく1970年法を堅持し、全ての麻薬売買・摂取に対し懲役1年+罰金3750€を科す。今日、大麻摂取者は約400万人にのぼり、その1/3は常用者だ。若者たちがディスコやパーティなどでフェット気分を盛り上げるカナビス(大麻樹脂ハシシ、マリファナ)などを味わう機会も増えている。街で買える1グラムの値段もハシシは約5€、マリファナ10€、合成麻薬エクスタシー1錠5€、コカイン65€、ヘロイン45€と、70-80年代には考えられなかった値段で若者の間に浸透している。
国連によると、世界全地域におよぶ大麻の生産量は05年4万2千トン(北南米46%、アフリカ・アジア26% )。ケシの主要生産国アフガニスタンのタリバンも大麻の生産に力を入れている。
大麻に寛容なオランダは国産の80%を輸出、スイス・英国では自家栽培の大麻が国内需要の60%を供給。2 月にパリ北郊外のベトナム人栽培者宅で700株が摘発されたが野放図な屋内栽培が増えそう。一方、大麻樹脂の世界生産量6 600トンのうちの1/3はモロッコからスペイン経由で欧州に流れ込んでいる。09年仏国内で59㌧を押収したが全体の21%にすぎず「大海の一滴を匙ですくうようだ」と麻薬取締班警官はこぼす。
世界の麻薬利用者は2億5千万人といわれている今日、大麻などをタバコと同様にみなすべきか次期大統領選の論戦の一つになりそう。(君)