●第64回カンヌ映画祭報告
実はカンヌにいたといううわさもあるが、あくまで公の場に出たがらない巨匠テレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』が最高賞パルムドールを獲得。『天国の日々』で監督賞を獲って以来32年ぶりのカンヌ受賞に沸いた。本作は50年代アメリカの父(ブラッド・ピット)と息子(ショーン・ペン)が登場したが、今年のカンヌは妙に父と子の関係性に迫る作品が目立った。ヨセフ・シダーの『Footnote』(脚本賞受賞)、ダルデンヌ兄弟の『少年と自転車』(グランプリ受賞)、パルムドールの呼び声もあったアキ・カウリスマキの『ル・アーヴル』、三池崇史監督の『一命』、パオロ・ソレンティーノの『This Must Be The Place』など。
ショーレースの裏側ではもうひとつの気になる父と子の物語も。『メランコリア』を出品したラース・フォン・トリアー監督が、会見で「ヒトラーが理解できる」と発言。事態を深刻視した映画祭側は、ただちに彼を前代未聞の映画祭追放の刑に処したのだ。発言にとりわけ激怒したのはユダヤ系の映画祭会長ジル・ジャコブだったろう。ジャコブはトリアーが「父」と慕う人物だが、今回ばかりは大事に育てた可愛いやんちゃ息子の挑発を許せなかったご様子。今後この父と子が和解をし、再びトリアー作品がカンヌに登場するのか気になるところ。一方、ロバート・デ・ニーロ率いる審査員団は、傑作の誉れ高い本作に対してキルスティン・ダンストに女優賞を贈るという形で作品へのリスペクトを示した。
他にも審査員特別賞を獲ったマイウェンの『Polisse』ら女性監督が4作品コンペに入ったのは史上最多であり、女性が健闘した年でもあった。フランス映画に関しては、サルコジ大統領をとりあげた『La Conquête』をはじめ、『L’Exercice de l’Etat』、『Pater』ら政治的な作品が目立った。個人的にはソレンティーノ作品がもっと評価されてほしかったが、終ってみれば多様性に満ちた悪くない年だったと思う。(瑞)