“Une ballade d’amour et de mort : photographie préraphaélite en Grande-Bretagne, 1848-1875”
イギリスのヴィクトリア朝の芸術運動、ラファエル前派といえば、ロセッティやバーン=ジョーンズの絵画作品が有名だが、ここでは、あまり知られていなかった写真にフォーカスしている。
この展覧会の楽しみは四つある。一つは、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティのモデルで有名なジェーン・モリス(ウィリアム・モリスの妻)の肖像写真と、ロセッティの油彩とを見比べられること。ロセッティによるモリスは、憂いを含んだうりざね顔の美女だが、ジョン・ロバート・パーソンズの写真には似て非なる女性に写っている。捕獲され、檻に閉じ込められたばかりの疲れた野獣のような表情。太く黒い眉とギョロリとした目が意思の強さを感じさせる。たっぷりしたドレスと相まって、絵の中ではロマンティックな雰囲気を醸し出す縮れ毛も、写真では、制御できない内なる野性的なものの表れのように見える。
2番目は、『不思議の国のアリス』の著者、ルイス・キャロルによる写真だ。子供の表情の捉え方が巧みで、路上の子供たちを描いたムリリョの絵を思わせる。
3番目は、当時の芸術家サークルの中の相関図と合わせて見ることの面白さだ。『不思議の国のアリス』のアリスのモデルだったアリス・リディルは、ジュリア・マーガレット・カメロンの写真に何度も登場する。画家ジョージ・フレデリック・ワッツの妻になったエレン・テリーは、ワッツの絵だけでなく、カメロンやキャロルの写真のモデルにもなった。
4番目の楽しみ、そして展覧会最大の収穫は、女性写真家、ジュリア・マーガレット・カメロンを発見できたことだ。カメロンは、妹がロンドンで主宰していた芸術サロンに出入りし、ラファエル前派の人たちと親交を結んだ。48歳でカメラを入手し、11年間の写真家生活の間に多くの肖像写真と文芸写真を残した。文学作品を題材にした作品には、高い美意識と抑えた感情のさざめきが感じられる。夫をリア王のモデルにした「王国を3人の娘たちに分けるリア王」(末娘役はアリス・リディル)、たそがれのような光の中でうつむくエレン・テリーが美しい「悲しみ」、知的なワッツの肖像など、逸品が多い。(羽)
オルセー美術館:5月29日迄。月休。