工場閉鎖で職を失い、北の町ダンケルクを離れ、パリで家政婦をはじめるフランス(カリン・ヴィヤール)。彼女を雇うのは巨万の富を一瞬で動かす若手トレーダー、スティーヴ(ジル・ルルーシュ)。二人が生きる世界はあまりにも違う。大袈裟? カリカチュア?
いえいえ、これは紛れもなくフランスの現実の一端です。長編10本目にしてクラピッシュがストレートに挑んだ社会派コメディが公開中だ。
本作は珍しく真っ正面から挑んだ社会派映画だが…。
これは私にとって初めて時事ニュースから端を発した作品。労働とお金の問題が表面化して久しいが、貧困層と富裕層の格差は広がるばかり。フランスだけでなく世界的な問題だ。これを「悲劇」として捉えるのではなく、コメディにして笑ってもみたかった。でも自分はクリエイターの一人として、観客を楽しませるだけではなく、何かしらの警告を発することも重要だと思っている。フランスは昔から「権利の国」と思われてきたけど、現在は平等よりあまりに不平等が多い。お金が増えれば増えるほど不平等を生んでいる。
登場人物はかなり象徴的に描かれるが。
私たちは日々パソコンや携帯電話を使う。だんだんとヴァーチャルな世界に入り込み、リアリティや人間らしさから遠ざかっている。トレーダーであるスティーブもまた数字の世界にすっかり入り込んでいるんだ。映画ではそれがどんな結果を生むのかまでしっかりと描きたかった。
フランス映画と政府の関係について。
文化というものは、商業主義のロジックのみに取り込まれてはならないが、現在政府は「もうけを生み出せるか否か」という観点のみでしか文化に興味を持っていない。フランス映画は相変わらず大変な時期にある。まあ映画界に限らずフランスという国全体が、かなり悲劇的な状況にあるわけだが。しかし危機たる時期は警告が促され、何かが起こりつつある時期。今、何かが目覚め得るまさに過渡期にあると思っている。(聞き手:瑞)