2009年6月30日に急逝したドイツの舞踏家にして振付師、ヴッパタール・タンツテアターの主宰者ピナ・バウシュ。舞踏団員と供に世界各地で創作公演活動を繰り広げ、パリには毎年6月テアトル・ド・ラ・ヴィルに舞い降りていたから(毎回チケットが売切だったけど)生の舞台を観た人も多いと思う。映画監督のヴィム・ヴェンダースと彼女は20年来の友だち。二人はタンツテアターを映画にすることを計画していた。一人残されたヴィムが発奮して完成させたのが『Pina』。今年2月のベルリン映画祭でプレミア上映され話題をさらった。3Dというのが売りだ。そりや3Dの方が臨場感あるけど、3Dが必須アイテムかというとそんなこともない。やはり中身だ。
孤児になった舞踏団員たちがピナの遺産を引き受けて踊りつづける。そこが素晴らしい。舞踏団の本拠地、ドイツのヴッパタール市はモノレールが有名でヴェンダース初期の傑作『都会のアリス』にも登場していた。劇場から飛び出したダンサーたちが市街や近郊にロケしてレパートリーを披露する。3Dより、こういうところに映画ならではのダイナミズムがある。ピナ・バウシュは、ダンスや演劇を混合超越して舞台芸術、身体表現に革命を起こしたと言ってもいい。心の奥に潜む怒りや哀しみを身体の動きで表現する。それは時として、もどかしかったり更には滑稽(こっけい)であったりもする。それら全部ひっくるめて肉体が発する感情。彼女独特の振り付けは、その後のダンス界でさんざん踏襲されているけど、ダンサー個々に覚悟と解放がなければ無意味だ。映画『Pina』は、彼女の偉業に触れる機会を与えてくれるという意味で記録映画の使命をまっとうしている。固いこと書いたけど「一見は百聞にしかず」です。(吉)