年初めからタトゥー、入れ墨の話? 針で刺す和彫りの「入れ墨 / 刺青」に対し、欧米のマシーン彫り「タトゥー」。最近、とくに夏は若いフランス人男女のおへそや腰あたり、腕や肩、足首にバラやイルカ、ハート形のタトゥーを眼にすることが多い。おしゃれの一つなのだろう。
日本人の眼には、やはり入れ墨はどろどろしたドス黒い印象を免れない。古代中国では五刑の一つだった〈墨刑〉、日本の律令制にも「入墨刑」があったし、古代エジプト、ギリシャでは奴隷の額に入れ墨し、個体識別に利用された。ナチス強制収容所のユダヤ人の腕にも収容者番号が記された。
が、江戸時代に火消しやトビ・博徒・飛脚にとって刺青は文身と呼ばれ「粋」を表し、「ヤクザ」の入れ墨は技術、図柄の面でも西洋の彫り師に一目おかれている。しかしながら日本では、警察の取調べなどで「入れ墨をしていますか」という質問が、何かしら社会的レッテル貼りにされるよう。
60年代以降タトゥーtatouageはヒッピー文化のサブカルチャーとして当初、チベット仏教関係の図柄が取り入れられ、80年代以降はロック・パンク、スキンヘッド、バイク族などに浸透していった。今日、芸能界やスポーツ、モード界でもそれぞれ、ちょいエキセントリックなアイデンティティづくりに一役かっている。
フランス世論研究所 IFOPの統計によれば、90年代に国内に30軒ほどしかなかったタトゥースタジオがいまは1500軒、プロの彫り師は4000人(モグリを入れるとその2倍)。タトゥーはさほど痛くないためか、成人10人のうち1人が一度は彫ってもらったことがあり、25~34歳は20 %にのぼる。フランスでは09年に衛生局が初めてスタジオと器具に関する規定を定め、彫り師には最低21時間の研修を義務付けた。未成年者は親の許可か付き添いが必要だ。
レピュブリック広場付近にあるタトゥースタジオ 〈KUSTOM〉*を訪れてみた。店主NIKO氏は元イラストレーターで、彼が開業したのは1995年、そのころはまだTatoueurという職業はなくエステティシアンとしてスタートした。彼の得意は、どくろやサタン、バラや妖精の顔、虎や鷲など…筋彫りとボカシの黒色系の図柄を描くこと。取材した日、23歳の女性が9月以来5回目、最後の仕上げに来ていた(写真)。右腕にバラの枝葉が伸び、深紅のバラ一輪の影に妖精の顔…。彼女は父親が経営するレストランで働き、夏などはタトゥーを「ワンピースの飾り」にしているという。最近客のなかにはバレンタインデーに妻の肩にバラの一輪をプレゼントする男性もいるそう。
料金は1時間くらいで彫れる図柄なら約150ユーロ、腕全体なら400~600ユーロ、10回以上にわたる背中全体なら3000~4000ユーロだとか。
取材の日、挨拶しはっとしたのは、ニコ氏が40代のアラン・ドロンに似ていることだった、どうしよう…。(君)
*24 av. de la République 11e 01.4700.1026