浮遊感なんとも心地いい。 “Enter the void”

 『カルネ Carne』、『カノン Seul contre tous』、『アレックス Irreversible』とずっと問題作を投げかけてきたギャスパー・ノエの新作『Enter the void』は東京が舞台。オスカーという西洋人の青年が主人公。映画は彼の一人称で綴られる。ドラッグのディーラーで、自らもドラッグ漬けの彼は、ある日警察の手入れを受け、あっけなく銃弾に倒れてしまう。彼の魂は肉体を離脱して彷徨いはじめる。もっとも既に生前から彼はドラッグでトリップしていたから生と死の境界線は曖昧だ。オスカーにはリンダという妹がいて二人は東京で一緒に暮らしていた。オスカーの魂は走馬燈のように過去と現在を駆けめぐる。オスカーとリンダは幼少時に両親を交通事故で亡くし孤児となった。二人は「何があっても二人は一緒」という誓いを立てていた。だからオスカーはリンダが幸せになるのを見届けるまで昇天できないのだ……。
 ギャスパー・ノエはフランス映画界の異端児。彼の映画は常に物議を醸す。それは「性」を核心に据え、その描写に遠慮がないからだ。「性」が誘発する暴力もしかり。今回のオスカーも性に対するトラウマがある(それは監督自身のトラウマなのかも知れないが)。両親のセックスを目撃してしまったオスカー少年の魂は、ラスト近くで東京ラブホテル巡りをする。「性」を一生懸命受け入れようとでもするように…? 
 この監督には純真があると思う。そして頭脳ではなく感性で映像を追及しようとする映画作家としての挑戦的な姿勢がある。彼の映画にはいつもギャスパー印がついている。真の意味で、彼は作家の映画film d’auteurを撮る監督だ。本作は浮遊感がなんとも心地よくネオンきらめくの東京の夜景とマッチ。いつもと違う映画体験ができます。(吉)