この新しい名詞、発音するとオートアントルプルヌール。サルコジ大統領の発案で09年1月に施行されたミクロ企業体で、失業者、定年退職者、学生、公務員も資本金なしでつくれる自営業だ。
不況の中で、昨年は会社設立件数が前年比21.5%も減退したのに対し、オートアントルプルヌールは32万社設立された。登録者の49%は、再就職できない中年層や失業手当期限切れの人、就労連帯手当RSA受給者が占めている。一方、会社に勤めながら副業とする人(29%)や顧問になる年金生活者(17%)、小企業の会計管理などする公務員(3%)、アルバイトする学生(2%)と広い層にわたる。平均年齢44歳、月収700ユーロ前後で生活費の足しにする程度だが、新しい労働市場として広がっていきそうだ。
オートアントルプルヌールは法人personne moraleではなく、自然人personne physiqueとして開業できるので、一般企業・商店のように商業登録や法人登記をする必要がない。
3分野に分かれており、(1)年間扱い高8万ユーロ未満の商店・食品店・レストラン・ホテル業などは社会保障費12% +税1%=13%を月毎か3カ月毎にURSSAF(社会保障費徴収組合)に払い込む。(2)職人・労務提供者は年収3万2千ユーロ未満で21.3%+ 1.7%=23%を払い込む。(3)顧問やコーチ、教師、技師、デザイナーなど広範囲のサービス業は年収3万2千ユーロ未満。同様に18.3%+ 2.2%=20.5 %を払い込む。従来、翻訳業なども付加価値税TVAが関係するが、オートアントルプルヌールは請求額にTVAを加えないが、法人ではないのでTVAの回収はできない。どの分野も2年間は上限額を越えられるが、3年後も上限を超えると法人化しなければならない。また12カ月無収入の場合、登録から除外される。
もう一つ重要なことは、企業がオートアントルプルヌールを雇った場合、支払い額には社会保障費を払わなくてもいい点だ。企業は社会保障費(企業負担率41%、社員21%)を節約でき、URSSAF や厚生労働省も無申告のヤミ雇用を防止できるわけである。
オートアントルプルヌールになりたい人は、www.lautoentrepreneur.frのHPに住所・氏名・業種などを記入して申請すれば、登録番号とともに登録証明書が郵送されてくる。あとは1カ月か3カ月毎にURSSAFから送られてくる負担金徴収書に13~23%を払い込むだけでいい。
筆者のまわりでオートアントルプルヌールになった人のなかには、学生ビザでフランス語を学びながら日本でやっていた健康コンサルタント業を開始した女性。もう1人はパーティなどに料理人として出張する仕事をしており、収入の23%をURSSAFに払い込んでいる。ある仏人男性は食品輸入会社の社員でありながら夜間・週末には自宅で通信販売をしているという。
副業としてオートアントルプルヌールになる場合、時間帯や業種が本業とかち合わないように、雇い主の同意を得ておくことが無難だろう。(君)