「エールエムイーをもらってる」とか「エールエムイーを申請すれば」とか日常生活のなかでよく耳にする。RMI(社会復帰最低収入手当)は1988年にミッテラン政権のロカール首相が、当時急増しつつあった長期失業者を対象に施行した給付金制度(437€)。今日26歳以上の受給者は120万人におよぶ。しかしRMIは仕事が見つかると給付額が減額されることから仕事をさがす意欲もそがれ、雇用センター(Pôle emploiに改称)も彼らの対応には力を入れず、失業者の間にRMI受給者が定着。
そこで 前エマウス会長マルタン・イルシュ連帯高等弁務官が考案した Revenu de Solidarit Active(就労連帯手当)がこの6月1日から施行された。RSAは、RMIとAPI(片親所帯手当)に代わる貧困所帯手当で、受給者がパートや臨時職についても給与が880€以下なら給付金はそのまま保持される。RSAはすでに1年前から33県で実施されてきたもので、国と県の折半財政により全国で適用される。総額98億ユーロにのぼるRSA予算は利子税などでまかなうという。
5月30日付ルモンド紙によると、昨年モルビアン県で約2000人がRMIからRSAに切り替えられた。彼らの73%はパートで高齢者介護士や通学送迎バス運転手、事務所・商店の掃除人など。受給所帯の60%は1人の給料で、貧困基準(月880€)以下の収入だ。彼らの25%は派遣か6カ月未満の臨時雇用、正規または6カ月以上の被雇用者は30%弱。イルシュ氏は、RSAの対象所帯数を310万戸(680万人相当)と見込んでいる。
ルモンド紙掲載の母子家庭のオディルさんの例を追ってみよう。セーヌサンドニ県で9人兄弟のなかで育ったオディルさんは16歳から朝市の肉屋、冷凍食品店とパート勤務を続け、病気で倒れ初めてRMIを受給。ブルターニュに引っ越してからは8歳の娘を抱え、RMI 437€+住居手当310€+家族手当82€=829€で生計をまかなう。07年に掃除婦の仕事が見つかり、車で回りながら数カ所で働き600eの収入を得るようになる。が、RMIは一挙に135€に減額された。家賃や車のクレジットとガソリン、娘の私立学校授業料・給食代…と働けば働くほど残るお金は減る一方。08年2月から彼女の住むモルビアン県がRSAを施行して以来、収入は750€+RSA 250€=1000€となった。しかしスーパーでは特売品を買うようにし、映画は日曜午前の割引料金で、浜辺でムール貝を拾っては夕食に。彼女の夢は、娘をブティックに連れていき「何でも好きなものを買っていいよ」と言ってやれる日がくることだという。
戦後最悪の経済危機のなかで今年5カ月で失業者が64万人増、年内に1975年以来最高の300万人(失業率約9%)に達する予想。企業も低賃金のパートを増やす傾向にあり、RSAはそれを助長しかねない。給付金を必要とするパート人口が急増し貧富差が拡大、社会ピラミッドの底辺が広がっていきそうだ。(君)