写真は、誕生以来、論争、スキャンダル、裁判のもと。ダニエル・ジラルダン、クリスチャン・パーカーの共著は、「写真の法的、倫理的歴史」という副題付きだが、見てどきっ、読んで考えさせられ、手放せなくなる。
約30万ドルで売買されたというビスマルクの老いもあらわな死に顔、ナチスに絞首刑にされた若く美しい共産党員、強制収容所に積み重なるユダヤ人の死体、ヒトラーの浴槽で体を洗う従軍カメラマン、リー・ミラー、2005年の展覧会用ポスターで手に挟んだタバコを消されたサルトル、写真家に著作権料が一切入っていない、かの有名なチェ・ゲバラ像、スーダンで餓死しかけている幼児を見つめるハゲタカ…。
写真は、他の造形美術と違って、現実を切り取っただけと思われがちで、宗教界、さまざまな思想・倫理団体、マスコミなどからの批判を浴びる。たとえば、ガリー・グロスが撮った10歳のブルック・シールズのヌード、イリナ・イオネスコが撮った実の娘エヴァのヌードなど、現在の小児性愛に対する糾弾が強い風潮の中では、発表不可能だろう。そういえば、ダヴィッド・ハミルトンの少女たちのソフトな裸体もポスターから姿を消した。時代と共に人生観、倫理観は変化する。そうした時代に合わせるように、写真家たちが知らずに自己検閲していくことがこわい。(真) Actes Sud社発行。45€。