水は、地球自身であり、どこにでもあるから、この仕事を選んだんだ。
ブノワさんはパリに近いイヴリーヌ県生まれ。大学でSTAPS(科学技術体育スポーツ課程)を専攻してから、パリの消防署に勤務。BEESAN(Brevet d’Etat d’Educateur Sportif, Des Activités de la Natation)を取得し、ニューカレドニアのビーチで監視員を始める。「約1年間の経験は大きかったです。海岸での仕事は、自然を含めさまざまなシチュエーションに対応しなければなりませんでした。その後、南仏、アヌシーへ移り、2008年からパリで働き始めました」。「英雄天畏男人多情」と左腕に刻まれたタトゥー…プールのヒーローといった印象のブノワさんだが、彼の内面も決して外見の派手さに負けない自負に満たされている。「幼いころから柔術をはじめ、スポーツが大好きでした。フランスだけでなく、世界のどこでも働ける仕事をしたいと思い、たどり着いたのが水泳指導員です。夏の海水浴場を追って北半球へ行ったり南半球へ行ったり、太陽と水と一緒に動いてできる仕事ですね、というのが私の理想ですが」
マキシムさんはガスコーニュ地方出身。「僕は6歳の頃からずっとピアノを習っていて、生まれ育ったオーシュでは、カテドラルでオルガンも弾いていました。でも競走をはじめスポーツが大好きで、ブノワが言うように、BEESANは学校の先生になる場合も必要と聞いていたので、いずれにせよ役に立つかと思い、ディプロムを取りました。この仕事に必要なBEESANは、水に関わるすべてを網羅したディプロム、水のスペシャリストといったところでしょうか。救助法以外に、小児心理、教育学も課程の一部にあります。19歳でアイルランドに語学留学し、フランスへ帰国してこの仕事に就き、今21歳です。人を助けることができ、人に何かを教えられる、僕にとっては情熱的な仕事です」
彼らの仕事はまず、監視が第一だ。プール内では同僚とよくおしゃべりをしている印象を与えることもあるが、常に一定の速度で水面を見ている。状況によっては、プールの周りを歩きながら監視もする。
万が一事故が起こった場合、彼らの俊敏なチームワークがものをいう。「法的には常に3人の監視員が一つのプールにいなければなりません。また小学生の授業ではそれとは別に子供を監視する役目として+2人必要」とブノワさん。「溺れるのは子供が多いですね。消防署の救急車には意外なほどによく世話になっています。プールサイドで転んだり、夏の間開放されるサンルームで日射病にかかったりする利用者が多いです」と言うのはマキシムさん。彼らはまた、アクアジム、シンクロナイズドスイミング、潜水、水泳(乳児、妊婦も含む)の教員でもある。
ところで、監視員というと映画やテレビの世界では特にヒーロー的な存在。利用者からのナンパなどありませんか?「…デリケートな質問ですが(笑)、たまに電話番号をもらったりします。仕事中は監視に集中し、利用者と目を極力合わせないようにしています」というのがブノワさんの返事だった。