バルザックの料理帖7

 バルザックの描くダイナミックな食事の風景には思わずひきつけられるけれど、料理人についてのくだりも見逃せない。『人間喜劇』に収められている中編小説『ガンバラ』には、ユニークなプロの料理人ジャルディアーニが登場する。この料理人は、料理に対する狂おしいばかりの探究心に溢れるばかりに、次々と突飛な料理を編み出した挙句、自国を後にすることを強いられてしまったという人物。かたや才気溢れる主人公の音楽家ガンバラはというと、音楽を学問として研究しすぎたあまりにバランスを崩し、その結果、売れない楽曲ばかりを生み出してしまう。ガンバラが「夜も昼も頭の中で歌劇や交響曲を作曲」していれば、やせっぽちのナポリ出身の料理人ジャルディアーニは「わたしは、わたしに笑いかける料理を作ることに抵抗できません」(小松清訳)と断言する。この勇気ある芸術家二人、努力もむなしく、終盤になるとジャルディアーニはしがない残飯屋に、ガンバラは愛する美貌の妻マリアンヌに見放された挙句、楽器修繕人になりさがってしまう。
 バルザックは「唯一、私が嫉妬する相手がいるとすればそれはベートーヴェンだ」と語り、『ガンバラ』の中でも「ベートーヴェンの交響曲の管弦楽の各音部は、全体的な目標のために与えられた秩序に従うのです、そして実にみごとに考えられた設計に従っているのです」と書いている。作家にとって、音楽は芸術の中でも最も崇高なものだった。料理人と音楽家の芸術観を同じものとして扱う『ガンバラ』には、バルザックが料理人に向ける温かい尊敬の念がこもっている。ただ、ジャルディーニは芸術家であると同時に商売人でもあるのだけれど、その話はまた別の機会に…。(さ)


 

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