カンヌ映画祭の作品選定を担う総合代表ティエリー・フレモー。風采だけならフランス版・上岡龍太郎。だが彼の魅力は、ダイナミズムと親しみやすさ。映画祭期間中は、コンペ作以外も含め無数の作品上映前にさっそうと登場。柔道で鍛えた身のこなしで舞台を駆けのぼり、作品へのオマージュを熱を込めて語る。その遍在ぶりは影武者の存在を疑うほど。世界で一番華やかな祭りの渦中にあっても、夜は6時間睡眠と禁酒を守る。
映画の世界に入ったのは22歳。リヨンのリュミエール研究所でボランティアスタッフとなる。その後、監督のベルトラン・タヴェルニエらとともに、研究所の運営を担当。その働きが認められ、パリの新シネマテークからの誘いを受けるが、古巣への恩義を理由に断る。だがほどなくカンヌの名物ディレクター、ジル・ジャコブが、後継者としてフレモーに白羽の矢を立てた。「タヴェルニエが私の背中を押した。カンヌだ、断るなと」
現在、他の映画祭の台頭を前に、カンヌの上手な舵取りが迫られるフレモー。06年には『ダ・ヴィンチ・コード』の上映で物議を醸したのも記憶に新しい。「映画祭が生き残るためにはハリウッドが必要」とした彼の判断は、「吉」とでるのか否か? 映画ファンなら、今後のカンヌの10年をしかと見届けることが必要だ。(瑞)