オーストリアの4人の男性作家(アリ・ヤンカ、ウォルフガング・ガントナー、トビアス・ウルバン、フロリアン・ライター)による創造集団〈ゼリチン(以前の名称はゼラチン)〉の展覧会は、知る人ぞ知るの、今春の一大美術イベントだ。作品数は3000点以上。
展覧会用のポスターは、彼らが作ったものが美術館から承諾を得られなかったため、自分たちであちこちに張ったという。だから、地下鉄にも街にも大きなポスターはない。そしてなぜか、この展覧会のことは、パリ市近代美術館のサイトにも載っていない。通常準備されるプレス資料も、カタログもない。すべてがアングラ的なのだ。
ゼリチンは、2003年に、ザルツブルクの近代美術館で、「凱旋門」と題した、性器が勃起した巨大な男性裸体彫刻を展示し、市から苦情が寄せられたため、1週間で撤退を余儀なくさせれたという、スキャンダラスな話題にこと欠かないグループだ。
今回もその面目躍如。入るとすぐに、壁面一杯に張られた写真が目につく。よく見ると1枚1枚がアルファベットで、もっとよく見るとそれはウンコでできており、じっくり見ると、いくつかの文字がつながって詩になっている。これが、ゼリチン言うところの、アルファベットならぬ「カカベット」で、フランス人のために、仏訳版も作った。
ルーヴル(なぜか、定冠詞がLa)というテーマが示すように、会場全体がルーヴル美術館のゼリチン版だ。トイレットペーパーで作ったシャンデリア、前の展覧会の廃材をリサイクルした彫刻、モナリザ50点、ぬいぐるみの猫の頭が付いた王冠…美術館だからトイレもある。排泄している自分が見える鏡付きのトイレで、本当に使える。性器と排泄物のオンパレードだが、猥褻さがまったくなく、カラっとしている。
奇怪な人物がくんずほぐれつする細密画はボッシュを思わせ、ハチャメチャなようでも、彼らが西洋美術の伝統を受け継いでいるのがわかる。
タブーのないゼリチンの作品を見ていると、アートって楽しいな、とつくづく思う。遊び心に満ちていて、子ども時代の自由な発想を思い出す。パリでしか見られないから、ぜひお見逃しなく。説明不要で楽しんで下さい。(羽)
パリ市近代美術館 : 11 av. du Président Wilson 16e
4月20日迄。月休。
●Babylone
13カ国から400点を集め、ハンムラビ王のバビロニア帝国から20世紀までの、バビロニア文明5千年の歴史を眺望する。聖書に記述された「バビロンの塔」は西洋絵画のテーマの一つとなった。映画や音楽への影響にも言及。展覧会は、この後、ベルリンとロンドンを巡回する。
6/2迄(火休)。ルーヴル美術館
●Goya Graveur
未公開作品を含むゴヤの版画210点。19世紀初頭スペインで起きた対仏独立戦争当時、フランス軍はスペイン民衆に対し略奪、処刑を繰り広げる。戦争の悲惨さと人間の愚かさをあますところなく表現した、普遍性を持った傑作だ。世界で今起きているドラマがここにある。ゴヤから触発されたドラクロワ、ルドンの作品も展示されている。
6/8迄(月休)。Petit Palais : av.Winston Churchil 8e
●Daumier
度重なる言論抑圧に負けず、政治と社会への風刺を貫いた19世紀の素描家オノレ・ドーミエの作品210点。現代社会に通じる面白さがある。添付された文章を読まないと、背景がわからないので、読むことを前提にして行こう。6/8迄(月休)。
国立図書館リシュリュー分館 : 58 rue de Richelieu 2e
●L’Âge d’or du romantisme allemand
ゲーテと同じ時代、ドイツ美術界では、素描に重きが置かれていた。カスパー・ダヴィッド・フリードリッヒ、フュッスリなど、当時のドイツロマン派の代表画家の素描と水彩画を一堂に。ドイツ、スイス、オーストリアの美術館の所蔵品から。6/15迄(月休)。
Musée de la vie romantique : 16 rue Chaptal 9e