まるで彫刻のような立体的な造形美にはっとさせられ、「ゴーン」という独創的な音の響きに息をのむ…。この不思議な楽器を演奏するのはミシェル・ドヌーヴさん。クリスタルは、鍵盤の前に置かれた容器の水に指をひたし、その濡れた指で鍵盤を撫でると音が生まれる。金属の棒を通じて振動が伝わり、ステンレス製の大きなスピーカーで音を拡大する楽器だ。![]() 「どこか特定の場所ではなく、5区というカルチエの全体像に惹かれるんだ」。ここはパリ発祥の地、シテ島の次にできた古い地区。「自然史博物館のある植物園、ローマ時代の闘技場アレーヌ・ド・リュテス、美しいタペストリーで知られるクリュニー中世美術館など、素晴らしい場所へ徒歩5、6分で行ける便利さがいい」。サンミッシェル界隈や大通りの喧騒にまぎれて見えにくいが、かつて栄えたラテン文化の影を残す足跡が、そこかしこに存在する。モベールに住んで20年、「その間に一番変わったのは、この地区のエスプリ。もう街角の小さなビストロやカフェにあった人情味あふれるシーンはなくなってしまったよ。昔は窓越しに世間話をしたり、人間同士の交流があったのにね」と、少し寂しそうな表情を見せた。 まだ知名度の低いクリスタルについては、「現代は、すぐに流行がきて、すぐに消えてしまうけど、何かを定着させるためには、根底からじっくりと作り上げていくことが重要だよ。ピアノだって、その素晴らしさを認められるまでに、150年もの時間が要ったんだから」(咲) *4月12日、東京・恵比寿の日仏会館でミシェルさんのコンサートが行われる。 |
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●Tabac du Collège de France 「今どき珍しく、コーヒーを1ユーロで飲める」とミシェルさんがよく足を運ぶ、コレージュ・ド・フランスのふもとにある、庶民的なカフェ&タバコ屋さん。奥には小さなテーブル席が4つあるが、たいていの客はカウンターでさっと立ち飲みしたり、タバコを買って帰る。ひっきりなしに訪れる学生や学者風のインテリっぽい常連たちが、和やかに談笑している。 21 rue Jean de Beauvais 5e 01.4354.5920 7h~20h。土日休み。 |
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