フランスでは、3日に1人の女性がドメスティック・バイオレンス(DV)で死亡している。
男女平等がかなりの度合いで確立されているフランスでも、長年放置されてきたのがドメスティック・バイオレンス(DV=仏語はviolence conjugale)の問題だ。近年、男女同権担当省によるテレビCMなどの啓蒙キャンペーンが行われたり、頻繁にメディアで取り上げられるようになって、この問題への認知度も高まったようだ。
同省が行った調査によると、2006年1~9月の間に法律婚・事実婚・PACS(市民連帯協約)を問わず、カップルの間で起きた殺人事件は113件(うち元カップルは12件)あり、その被害者の83%は女性。女性が加害者の場合、18人中12人は相手の男性の暴力の被害を受けていたという。3日に1人の割合で女性がDVによって死亡している計算になる(男性は14日に1人の割合)。原因は離婚・離別(41%)、言い争い(27%)、嫉妬(16%)など。またアルコールが直接的原因、引き金になっているケースも多い(23%)。さらに、加害者側の半分は失業者、退職者、病気療養中など、無職状態だった。
また、2000年に行われた女性への暴力に関するフランス初の全国調査、ENVEFF(Enquête nationale sur les violences envers les femmes en France)*によると(調査対象は20~59歳の女性6970人)、調査時から過去1年間にカップル(元)相手から身体的・精神的・性的暴力を受けたと答えた女性は10%。強姦や強姦未遂に遭った女性は0.5%。また11%が生涯で1回以上は性的暴力を受けたと答えている。
こうした実態調査に基づいて対策が検討された結果、さまざまなDV防止措置がとられた。2006年には刑法の改正などを含む「2006年4月4日法」が制定され、配偶者や事実婚の相手ばかりでなく、PACSの相手・元相手、元配偶者や元事実婚相手から受けた身体的・性的暴行や殺人、強姦に対しては加重情状(刑が重くなる)が科されるようになった(カップル内でも強姦罪が成立することは、1990年の破棄院判決の判例で確立されている)。
予防策としては、DV被害者の女性の相談を受け付ける団体の窓口増加、そうした訴えを的確に受け付けるための警官研修制度、DV被害者女性のためのシェルター増加、DVの際に警察の介入を容易にすることなどが盛り込まれた。また、被害者の最初の届出が出され次第、加害者を被害者の自宅に近づけないようにする法的措置がとられることが可能になった。さらに、3月14日にはDV被害者専用の全国共通の電話相談番号3919(市内通話料金で通話可能)が設置された。
*”Les violences envers les femmes en France” (La Documentation française, 22euros)
CR: Les Films du Poisson
●恋人の暴力による、女優マリー・トランティニャンの死に衝撃を受けたエマニュエル・ミレ氏のイニシアチブで、DV問題への関心を喚起するための短編映画10本がTV局アルテなどの支援で製作された。ミレ氏をはじめパトリス・ルコントら10人の監督による3分前後の映画は、4月から映画館で公開作品の前に上映される。写真はLaurence Ferreira Barbosa監督の作品で、DVで死亡した女性の司法解剖をする場面。
数字で見よう、男女平等度
■政治
1999年に公職選挙における男女同数法(2000年6月6日法)が成立。同法がほぼ全面的に適用される地域圏、市議会、欧州議会で女性議員が占める率は上がったが、国政を担う国民議会・上院で女性議員比率はまだ低い。
国民議会
10.9%(1997年)→12.3%(2002年)
上院
10.9%(2001年)→16.9%(2004年)
地域圏議会
27.5%(1998年)→47.6%(2004年)
市町村議会
21.7%(1995年)→ 33%(2001年)
欧州議会
40.2%(1999年)→43.6%(2004年)
Observatoire de la parite entre les femmes et les hommesによる。()内は選挙年。
欧州各国の国会議員(下院)の女性の割合(2005年)は、トップのスウェーデン45.3%を筆頭に、フィンランド37.5%、デンマーク36.9%、オ
ランダ36.7%、スペイン36%と北欧諸国が上位を占め、フランスは25カ国中下から5番目(最下位はハンガリー、次はマルタ)。
■職場
女性の就労率(失業者含む)は15~64歳で63.8%(男性74.9%)で、うち24~49歳では81%(男性94.3%)。同じ仕事での男女平等の給与が義務付けられたのが1972年、1983年の〈ルディ法〉では、給与・採用・雇用形態が男女完全平等に。女性はパートタイム労働が全女性労働者の30.8%を占める(男性は5.6%)。パートタイムの給与をフルタイム換算した男女の給与差は男性を100%とした場合に、女性は民間では80.08%、公務員では85.8%。〈ガラスの天井〉はまだ堅牢。
職種による女性の占める割合
14.9%(10人以上の企業の経営者)
34.3%( 管理職・知的上級職)
47.8%(小学校教諭含む中間職)
77.4%(一般被雇用者)
18.3%(労働者)
■教育
77.4%(男子) 81.8%(女子)
女の子の方が勉強ができるのはフランスでは定説(?)。バカロレア(BAC)合格率は女子81.8%、男子77.4%(2004年)。ただし、一般BAC で女子が文学・経済・理系の各コースに進む割合が3等分なのに対して、男子は理系が6割、経済26%、文学7.9%。グランドゼコールに進むための準備クラスにおける女子の割合は41.7%、逆に一般大学への進学者のうち56.4%は女子。文学系への進学率の高さがその後の職業選択にも反映し、給与差を助長しているのだろうか。
■家庭
法のもとでは男女平等でも、家庭では家事や育児を女性の方が多く負担しているのが現実。
就労男女の平均的一日の時間の配分
仕事
♂6h33(1986年)→6h22(1999年)
♀5h15(1986年)→5h01(1999年)
家事
♂1h51(1986年)→1h59(1999年)
♀3h49(1986年)→3h48(1999年)
自由時間
♂3h36(1986年)→3h44(1999年)
♀2h48(1986年)→3h02(1999年)
INSEE, Enquete emploi du temps