ニューヨークを本拠に、ヴェニス、ベルリン、ラスベガス、ビルバオにも美術館を持つグッゲンハイム財団を中心に、アラブ首長国連邦の首都アブダビに面するサディヤット島での文化パークの建設プロジェクトが推し進められている。2012年からその中に美術館4館他、劇場、ゴルフ場、ホテルなどがペルシャ湾に浮かぶ小島に林立するようになる。 その中の最大の美術館は現代アートをカバーするグッゲンハイム美術館。2番目は「ルーヴル」と呼ぶかどうか懸案中の古典美術館(ジャン・ヌーヴェルの設計)。海洋館は安藤忠雄の設計案が採用される。 ルモンド紙(1/11)掲載の2国間協定概要によると、「ルーヴル」という館名を向こう20年間使用し、ルーヴルとフランスの国立美術館が10年間常時300点を貸し出し、その代償として7億ユーロ(現地館員養成費も含む)が支払われる。が、「ルーヴル」と謳いながら、例えばアングル作『泉』やマネの『オランピア』などの裸婦に対するイスラム当局の検閲は避けられず作品の選択基準は曖昧だ。 ルーヴル・アブダビ構想に対してフランス国立美術館局カシャン名誉局長を始め、すでに2千人以上の美術館関係者らが反対の署名運動に参加。外国に館名と作品を大量に貸し出すことは「お金と交換にルーヴルの魂を売ること」、「美術館は売り物ではない」と彼らは美術館のグローバリゼーション化に反対する。 石油王国の新美術館が「中東のルーヴル」を装うことへの反発は理解できないでもないが、ルーヴルはすでに昨年10月から約1年間、米アトランタのハイ・ミュージアムに計185点を1300万ユーロで貸し出している。 ルーヴルが作品の賃貸による金儲け主義に走ることへの警告に対しルーヴルのロワレット館長とポンピドゥー・センターのラシーヌ館長は、作品は館内で死なせるものでなく世界に開かれたものとして、中国やインドなど21世紀の新興諸国の人々の目にも触れさせることによって初めて普遍性をもつものになると主張する。折しもポンピドゥー・センターは上海に同名のセンターの開設を準備中だ。 パリ=ルーヴルという歴史的地理的特異性にしがみついていては、海外進出を目指す大英博物館やエミルタージュ美術館などに先を越されてしまう、とルーヴルの将来を思いやってのアブダビ・ルーヴル構想なのだろう。 見学者数では世界一位のルーヴルに毎年750万人の人が長蛇の列をつくっている。この人たちに対し、当分モナリザは中東に「貸出中」ではすまされないのでは? モナリザあってのルーヴル美術館だろうし…。(君) |
|