Chinchards a l’escabeche
アジやイワシなどの小魚を唐揚げにしてから、少々辛い甘酢に漬け込む南蛮漬けは、食欲がすすむ一品。名前から推察できるように、スペインやポルトガルで “escabeche(「頭なし」という意味)” と呼ばれている名物料理が伝わったものだ。最近魚屋で、活きのよい光り輝くような小アジを見かけるので(キロ5ユーロ前後!)、このオリジナル版の南蛮漬けを作ってみよう。
まずタレ用のニンジン、セロリ、タマネギは薄く輪切りにする。パセリはみじん切り。半個分のレモンの皮はせん切り。小アジ1キロ半は、ゼイゴという尾の方にある固いうろこをよく切れる包丁でそぎとる。日本では頭をつけたまま唐揚げにするけれど、今回はスペイン、ポルトガル流に頭を落とし、その切り口からハラワタを取り出し、薄く小麦粉をまぶし、余分な粉をはたき落とす。深めのフライパンや天ぷら鍋に落花生油とオリーブ油を半々にとり、アジを170度くらいのあまり熱すぎない温度でじっくりと揚げていく。これを大きめの深皿に重ならないように並べ、塩、コショウ。
鍋にオリーブ油をとり、ニンジン、セロリ、タマネギ、押しつぶしたニンニク4片を入れ、軽く炒めたら、シェリー・ビネガーvinaigre de Xeres(なければ普通のビネガーでもかまわない)を注ぐ。甘味がほしい人は砂糖適量を加えてもいい。さらにタイム、ローリエの葉、唐辛子粉適量、クミンパウダーひとつまみを加え、沸騰してきたら火から下ろし10分ほど置いておく。これをアジの上から野菜ごと振りかける。みじん切りにしておいたパセリも散らし、時々アジをひっくり返しながら、味がすっかりなじむように最低24時間は待ちたい。レモンやオレンジの輪切りで飾り、深皿ごと食卓に。酸味でアジの骨が柔らかくなり、小さいものなら骨まで食べられる健康食だ。前菜にもいいし、ポテトサラダなどを添えれば立派な一食になるだろう。
ワインはムスカデ。ポルトガル産の白、ヴィーニョ・ヴェルデがあれば文句なし。(真)
小アジ1.5キロ、タマネギ1個、ニンジン1本、セロリ1茎、レモン1個、ニンニク4片、シェリーのビネガー250cc、オリーブ油、落花生油、ローリエの葉2枚、タイム1枝、パセリ半束、唐辛子粉適量、クミンパウダー少々、塩、コショウ
●アジ chinchard
アジは年中魚屋に並んでいるけれど、旬は夏とされている。調理する前に、尾びれのつけ根から体の後半部にかけてあるゼイゴ(ゼンゴ)をそぐようにして切り取らなければならない。時々全長30センチくらいはありそうなアジも見かけるが、こんなものは、そのまま塩焼きが一番。開いてひと塩して干し物もうまい。中型のものは、三枚に下ろしてから身を細かく切り、ネギ、ショウガと混ぜてたたきにしたい。フランス風に白ワインやトマトソースで煮込むのもおすすめだ。小さなものは丸ごと油で揚げて骨ごと食べましょう。ロシアなどから輸入されている “saury”あるいは “saurel” という魚の缶詰の中味はアジ。
●小麦粉のまぶし方
今回のレシピのように小魚に小麦粉をまぶす時は、穴の空いていないビニール袋に小麦粉適量を入れ、そこへ数回に分けて小魚を入れ、手で袋の口を閉めて勢いよく振るのが一番だ。ハラワタを除いたあとまでまんべんなく小麦粉がまぶされる。あとは余分な粉を軽くたたいて落とすだけだ。
●Vinho verde
ポルトガルのポルトに夏のバカンスで行ったことがある。坂の多い街を散歩して汗をかいて入った庶民的なレストラン。そこで大きなピシェに入って出てきたワインがヴィーニョ・ヴェルデ。「緑のワイン」といっても色が緑ではなく若いワインという意味だ。熟成が終わりきっていないこともあって、軽く泡が立っている。酸味も少々あるので、暑い時にこのワインをごくごくと飲むのはさわやか。クルミなどのナッツ類と共に食前酒として飲んだり、クリームソースなどを使っていないシンプルな魚料理に合わせよう。そういえば、やはり夏が暑いフランス南西部にあるガイヤックにもGaillac perleといって軽い発泡性の白があり、夏の夕方のアペリティフとして好まれている。
●ローリエ feuille de laurier
ローリエ(ベイリーフ)は、地中海沿岸原産の月桂樹の葉。軽い苦みを伴った独特の芳香を持ち、ブーケ・ガルニに加わって各種煮込み料理、肉や魚用のマリナード、スープ、ブイヨンなどに欠かせない。乾燥させたローリエの方が生葉のものより苦味も軽くてまろやかな風味をつけてくれる。葉の形がくずれてなく、しなやかで明るい緑色の葉を選びたい。灰色あるいは茶色がかったものは古い葉で香りにかける。香りが出るまで時間がかかるので、煮炊きの始めに加えます。入れすぎは禁物。4人分の料理で1、2枚が目安だ。暗所できちんと密封して保存。(真)