性善説で万人の胸に迫る。 “La vie des autres “

 ドイツ映画、渋いだろうという気構えで邦題『善き人のためのソナタ』(仏題は『La vie des autres 他人の暮らし』)に挑戦。確かに冒頭は「あ、鉄のカーテン時代の東の話ね。あのころは市民一般誰しもが互いを疑い、盗聴や密告がいつ自分の身にふりかかるかと戦々恐々と暮らしていたのよね、知ってるわ。その再現ドラマかぁ」と醒めて観てる。そのうち、権力側の人間は、イデオロギーとか体制維持のために庶民を締め付けていたのではなく個人の利益や「イジメ」の快感といった、もっと矮小な動機に根ざしていたのかも(もちろんそれを利用するもっと上の存在はあったのだろうが…)なんて考え出す。ところがである、本作は最終的に感動の人間ドラマを形成するのである。
 主人公のヴィスラー(ウルリッヒ・ミューエ)は諜報機関の有能な捜査官で、小役人的な性格も手伝って上層部から可愛がられている。ある日、彼は脚光を浴びる劇作家と女優のカップルの監視を仰せつかる。彼らが何をしたわけでもないが、危険思想つまり反体制的な自由思想の種を洗い出せという命令で住居に盗聴器を仕掛け24時間監視。このくだりは本当に背筋が凍る。しかも元はといえば文化大臣が女優に恋をして彼女をものにしたいというよこしまな理由。ヴィスラーは自分の出世もかかって意気揚々とこの仕事を始めるが、しだいに彼に変化の兆しが…。カップルを監視することで今まで知らなかった「愛」や「芸術」に触れ、彼に人間的な感情が芽吹く。そしてついには彼らを助けるために密かに体制に背く行為に出る…。後半はサスペンス感あり、ベルリンの壁崩壊後のラストの処理も感動的。弱冠33歳のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督は、性善説に基づく万人の胸に迫る本作でデビューを飾った。(吉)

Gaspard Ulliel (1983-)

 美形男優が苦戦を強いられるフランス映画業界で、今最も格闘しているイケメンといえば、ギャスパー・ウリエル。現在主演作2本の公開が相次ぐため、雑誌など至るところで彼の美しい顔を拝むことができる。
 1984年、ブローニュ・ビヤンクール生まれ。4歳の時に映画『突然炎のごとく』のジャンヌ・モローに一目惚れ。初の長編映画出演は『ジェヴォーダンの獣』の端役で、突然の代役だったという。その後、アンドレ・テシネの『かげろう』で、エマニュエル・べアール扮する未亡人を惹きつける青年として、続くジャン=ピエール・ジュネの『ロング・エンゲージメント』ではオドレイ・トトゥの婚約者として登場。『ロング』ではセザール最優秀新人賞を、ノミネート3回目の「三度目の正直」で受賞した。人気女優を次々手玉に取る役回りは世の男性の敵に見えたが、「相手役俳優」の時代は今年に入りはっきりと終焉を告げた。
 現在注目の作品『Jacquou Le Croquant』と『Hannibal Lecter』では、両作とも大人の犠牲となった孤児で、憎しみと強さを秘めた役を演じる。一方、私生活では大のポーカー好き。「映画同様はったりが必要のゲーム」と定義する。今後、俳優としてどんな見事な「はったり」をきかせてくれるのだろうか。(瑞)


●Les Petites Vacances
 微妙な感情の変化も言葉に焼き付ける「シナリオ重視」のフランス映画の伝統は、時にあくびをもよおさせる作品も多出してきたが、本作は伝統が良い方向だけに開花した小粒の良質作品だ。
 ちょっとした予定の狂いから、マミー(ベルナデット・ラフォン)は孫2人とバカンスを過ごすことに。すぐに帰るつもりが、帰りたいのに帰れない。いや本当は帰りたくない? 気がつけば、自身の存在を顧みる特別なバカンスになっていた。
 さっそうとしながら人一倍繊細。感情の矛盾をはらんだようなマミー演じるベルナデット・ラフォンに終始釘付け。オリヴィエ・プヨン長編初監督作品。(瑞)