Tendron de veau aux carottes
秋が深まり小寒い日が続くと無性に食べたくなるのが、こってりとろけるような風味をもった子牛のバラ肉の煮込み。子牛の肉は高くてなかなか手が出ないが、tendronと呼ばれる脂身が混じったバラ肉の部分は、キロ8ユーロ前後だから、まだまだ気楽に利用できる。今回はたっぷりのニンジンと煮込んでみよう。こういう料理は煮なおした方がおいしいくらいなので、少人数の家庭でも1キロ半は買ってくる。肉屋さんに頼んで大きめのブツ切りにしてもらった方がいいだろう。
タマネギ2個は輪切り、ニンジンは大きめに切り分ける。この方が子牛肉のうま味をたっぷり吸ったニンジンを味わうことができる。フライパンにバターを大さじ2杯とって強火にかけ、タマネギとニンジンを炒めていく。好みでやはり大きめに切ったセロリ少々を加えてもいい。砂糖を小さじ半杯ほど加えると軽くカラメル化して、いぶしたようないい香りがつくだろう。タマネギに色がついてきたら火から下ろす。
ココット鍋にバターを大さじ2杯とり、小麦粉をまぶしてから、はたいて余分な粉を落とした子牛のバラ肉を炒めていく。きれいな焼き色がついたら、水を半リットル加え、木のヘラを使って鍋の底についたうま味を溶け込ませるようにする。みじんに切ったタマネギ1個、セロリの茎も加えたブーケ・ガルニ、押しつぶしたニンニク2片を入れ、塩、コショウ。沸騰したら弱火に落とし、ふたをしてコトコトと1時間半ほど煮込んでいく。
肉が柔らかくなってきたら、先に炒めておいたタマネギとニンジンを加え、もう20分も煮込んでいけばでき上がりだ。熱くしておいた深めの大皿の中央に肉を盛り付け、その周りをニンジンとタマネギで飾り、煮汁をかけ回し、きざみパセリをたっぷりと散らして食卓へ。別器にタリアテッレなどのパスタを付け合わせたら文句なし。
ワインは、モルゴンのようなボージョレの赤の銘酒かな。(真)
子牛のバラ肉1.5キロ、ニンジン1キロ、タマネギ3個、バター大さじ4杯、ニンニク2片、小麦粉、ブーケ・ガルニ、パセリ半束、塩、コショウ
●にむら じゅんこ著『パリで出会ったエスニック料理』
オヴニーのレストラン紹介で、アジアやアフリカなどのエスニック料理を好んで紹介するのは、味だけで収まらない文化の広がりを感じることができるから。この素晴らしい一冊の著者も、パリで見つけた41カ国、147軒のレストランの味が隠す文化に、興味深いインタビューを通して近づいていく。レストランのガイドにとどまらず(といっても今すぐにでも出かけてみたい店が並んでいるけれど)、読み物としてもすごく面白い、100%おすすめ本。(真)
●〈子牛肉〉豆辞典
子牛肉veauは、母乳だけで育った子牛の肉で、明るいバラ色をしていて、乳の香りがし、脂はツヤのある白。肉が灰色がかったり、少々赤みがかったものは、母乳以外を混ぜ合わせた乳や、最近は少なくなったけれど禁止されているはずのホルモンを注射された子牛の肉。こんな肉は安いけれど水ぶくれ、火を通すと水気がドンドン出て半分くらいのボリュームになってガッカリ。結果的には高くつく。きょう行ったレストランの本日の一品は、子牛の骨付きヒレ肉cote premiereのソテーに、ニンニク風味のクリームソースがたっぷり添えてあるものだった。フランス人は子牛肉が大好物だから、客のほとんどがこの一品を頼んでいた。この骨付きヒレ肉は網焼きにも最高だ。noix、sous-noix、noix patissiereなどのモモ肉も素晴らしい。薄く切り出されたものはescalopeと呼ばれ、ソテーされてクリームソースが添えられるとノルマンディー風、ウィーンやミラノでは平たく伸ばされてカツになる。ローストされるのもモモ肉がほとんどだ。ヒレ肉やモモ肉に比べずいぶん値段が安くなる肩肉姿auleはブランケット、その他の煮込み料理に使うといい。適度の脂がこくを出してくれる。スネ肉jarretは骨ごとぶつ切りにされてトマト風味のオッソ・ブッコ。
子牛で忘れてはならないのはレバーfoieや胸腺ris de veau。どちらも臓物とは思えないほど値が張るけれど、フランス料理には欠かせない食材だ。芯にまだバラ色が残るようにさっと炒めて、パセリをたっぷり散らしたレバーのうまさは比類がない。頭t腎eだって捨てたものではない。これは気長にダシでゆでてから、グリビッシュと呼ばれるケッパーなどが入った少々酸っぱいソースで食べる。あのゼラチン質のうまさも他では見いだせない。