自分の体を使って表現の可能性を追求。 “Cindy Sherman”

 1954年生まれのシンディ・シャーマンは、写真家のなかでも特異な存在だ。デビュー当時から、モデルは自分一人だけ。衣装を変え、顔を変え、シチュエーションを変えて、どこにもない場所にいる、誰でもない女を創り出す。
 ニューヨーク州の大学で絵画を専攻したが、ある時、「絵はもういい」と思い、写真に転向した。卒業の2年後、Untitled Film Stillsという無題の白黒のシリーズで、世界的に注目を浴びた。
 1950-60年代の米国のB級映画や、イタリアのネオリアリズム映画の女主人公のような女性が、いわくありげな設定の中で、いわくありげな表情をしている。メーキャップも衣装も、念入りに仕立てられた架空の世界だ。「どこかで見たような」印象だが、思い出せない。特定の女優や映画をモデルにしているのではなく、多数の映画や主人公から立ちのぼる時代の雰囲気、女性のイメージを象徴した作品だからだ。シャーマンの顔も、絶対に思い出せない、自己のない顔だ。素顔は想像できない。身体は彼女の表現媒体だ。スター的なナルシシズムや、自己露出趣味は感じられない。
 作品からは簡単に物語が出てきそうだが、そのたやすさがかえってリアリティーの欠如を感じさせる。いかにもそれらしく作り上げられた世界をぺろっとむくと、はぐらかされたように何もない。そんな作品が次々と繰り広げられる。
 「私の写真には題名がない。見る人がそれぞれに解釈すればいい」とシャーマンは言う。
 自分が出てこない、人形やモノを撮った作品もあるが、一番面白いのは、シャーマンが変装で百変化(へんげ)する写真だ。
 西洋の肖像画を模したシリーズでは、時代衣装をつけたシャーマンが、バッカスや、聖母や、老婆になる。わざと露わにしたニセの乳房が、グロテスク度を煽っている。
 近年の作品ほど人工的になり、人物はますます奇妙になる。それだけに、「ツクリモノを見ている」という、作者との馴れ合いの安心感が見る側に生まれる。
 自分の体を使って限りなく表現の可能性を追求する彼女に、「シンディ、今度はなにを見せてくれるんだ?」と聞きたくなる。(羽)

ジュ・ド・ポーム:コンコルド広場
チュイルリー公園内。9月3日迄(月休)。

Galerie cent8   パリの現代美術ギャラリーで最も著名な『イヴォン・ランベール』の上階に、もうひとつ見逃すことのできないギャラリーがある。キュレーター、セルジュ・ルボーニュが率いる『Cent 8』(サンユイット)は、マリナ・アブラモヴィッチ、ユルゲン・クラウケ、ジョルジュ・トニーストール、レミー・ザウッグほか、今日の現代美術を代表する18人のアーティストを紹介している。
 中庭奥、アパルトマンへと続く階段を上って行くと、静かな階上には自然光をふんだんに採り入れた回廊状のギャラリーがある。この春に全面改装、拡張されたばかりで、見せる側にも見る側にも作品の印象がさらにに深くなるギャラリーとなった。
 インスタレーション、パフォーマンス、ビデオ、絵画、彫刻、写真と作家の表現媒体は違っても、共通しているのは「空間」における創作。展覧会は年に5、6回で、各作家が特にこのギャラリー空間を意識して創った新作ばかりが発表される。
 現在展示されているのは、ベルギーの作家マルト・ウェリーの作品。モノクロームの作品からは、彼女の持つ「色」の意識が息づくように感じられる。奥の会場では、作家のインタビュー及び制作風景のドキュメンタリーも上映されていて、充実した鑑賞ができるギャラリーだ。(久)

108 rue Vieille du Temple 3e 01.4274.5357
B階段3階。M。St-Sebastien Froissart
www.cent8.com
火~土 10-13h/14h30-19h。

 

●Musee Quai Branly がオープン
 アフリカ、アジア、オセアニア、アメリカ大陸の芸術・文化を紹介するケ・ブランリー美術館が6月23日にオープンした。常設展示スペース7000平米。30万点のコレクションは人類博物館とアフリカ・オセアニア博物館所蔵品がベース。月休。
37 quai Branly 7e

●George SEGAL (1924-2000)
 1950年代末より、人間から直接型取った石膏の彫刻を発表。無言で存在する白い人間の日常の風景。7月13日迄。
Galerie Marwan Hoss : 12 rue d’Alger 1er

●Profondeurs Vertes
 18世紀末から1940年代までのアメリカ人画家の60作品を紹介する企画展〈Les artistes americains et le Louvre〉にちなむアメリカ人アーティストMike Kelly(1954-)のビデオ作品。展示絵画Copley『ワトソンと鮫』(1777)とDewing『暗唱』(1891)の映像、ロートレアモンの詩、音楽。浮かび上がるおぼろげな物語。9月18日迄(火休)。ルーヴル美術館

●Agnes Varda, L’ile et elle
 映画監督アニエス・ヴァルダ(1928-)は、近年ビデオ作品がヴェニス・ビエンナーレに出展されるなど、アートの分野でも注目されている。新作ビデオ・インスタレーション。ノワールムチエ島の情景に重なるヴァルダの幻想世界。10/8迄(月休)。
Fondation Cartier : 261 bd Raspail 14e

●Dan FLAVIN (1933-1996)
 ミニマルアートの代表的作家の一人。ロシア構成主義やブランクーシの影響を受ける。1960年代より蛍光管を規則的に設置する作品を発表し、新しい彫刻の分野を開拓。心に残像を刻む光と色彩の存在感。10月8日迄(月休)。
パリ市現代美術館: 11 av. du President Wilson 16e

〈バカンスに出かけるなら〉
●Cezanne en Provence

 セザンヌ没後100年を記念し、故郷エクサンプロヴァンスのグラネ美術館が油彩、水彩117点を展示。サント・ヴィクトワール山を描く多くの作品やロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵『Les Grandes Baigneuses』などが一堂に。
Musee Granet : Place St-Jean-de-Malte, Aix-en-Provence