『下妻物語』別名『Kamikaze Girls』は、二人の大和撫子(!?)の友情物語。所は茨城県の下妻、東京は代官山まで2時間半かかる田舎だ。ロココ様式に憧れフリルいっぱいのお洋服が大好きな桃子(深田恭子)は、外見とは裏腹に人生を達観してるクールな少女。いっぽうイチゴ(土屋アンナ)は原付き飛ばしてヤンキーしてる(笑)ツッパリ少女、でも内面は桃子の百倍(!?)もナイーブなのだ。極端に相反するキャラが漫画チックに描かれ、あり得そうもないエピソードの展開に巻き込まれ、気がつけば桃子とイチゴの青春を応援している私がいた。
とかくコメディーはローカルな笑いが主体で、国境を越えにくい。仏国のメガヒット『Les Bronzes 3』が日本に届くとは想像しかねる。しかし見事『下妻物語』は国境を越えて世界の乙女心をつかむ可能性を秘めている。もち日本人にしか通じないギャグも多々、そりゃ水野晴郎が出てきたって私たちにしかウケないわけよ。でもローカルギャグを超越した確信に満ちたパワーがこの映画にはあるのだ。石井克人『茶の味』もそうだったけど、新感覚の日本映画が浸透し始めた感がある。『下妻物語』の監督、中島哲也も石井克人と同じくCM出身。全国少女御用達の嶽本野ばら先生の小説の映画化。
桃子とイチゴは、世間的にはハミ出し少女だろうけど、そんじょのエリートお嬢様より真剣に人生に立ち向かっているところが買いだ。本当にこんな娘たちがいるなら日本もまだ捨てたもんじゃないし、こういう映画を産む土壌があるなら日本映画には未来があるかも…。ちょっと褒め過ぎ? でもアンチ本流というかアンチ・アカデミズムというか、アンチ・リアリズムというか、カウンター・カルチャーのもつエネルギーが時代を動かすのだ。(吉)
●Volver
狂気が憑依するという東風が吹く町。殺人、亡霊の出現、出生の秘密と、極限の状況に置かれる因業深きスペイン女たち。ペドロ・アルモドヴァルが、お家芸のメロドラマ的語り部の才を発揮する新作。監督はいつだって、涙腺緩めな女たちの味方なのだ。(瑞)
●Le Caiman
『息子の部屋』以来長編から遠のいていたナンニ・モレッティ監督が、イタリアを「独裁」的に支配したベルルスコーニ前首相を主題とした作品を今年のカンヌで発表した。これが「最後の政治映画」だと公言するモレッティの意気込みが感じられる。(海)
Jacques Gamblin (1957-)
「人間観察が好き。私の大事な活動なのだ」。人気俳優というより作家然とした、こんな発言がよく似合うのがジャック・ガンブラン。実際、彼は自分で小説も出版する才人だが、得意な「人間観察」活動の延長に、作家と俳優の顔が自然にあるのだろう。『嘘の心』、『マドモワゼル』、『クリクリのいた夏』、『レセ・パセ 自由への通行許可証』、『Holy Lola』…。彼が輝く作品群を並べれば、やはりシナリオ重視の人間ドラマ嗜好がよく目立つ。
最初は舞台の裏方志望。だがステージを間近で見るうちに、俳優の仕事に憧れるように。30歳で映画の端役を得る。95年、『ペダル・ドゥース』に出演し、ストリップも辞さないホモの銀行員役で一躍有名に。その後は、デルフィーヌ・グレーズやダニス・タノヴィッチら才気溢れる若手から、クロード・シャブロル、今村昌平ら巨匠まで、様々なタイプの監督作品に出演。名演への力みから解き放たれながらも、役と映画に説得力を与える。ジャック・ガンブランは、観客にとっても監督にとっても、安心できる存在だ。
今月15日からは彼が主演のコメディ『Les Irreductibles』が公開。息子とともにバカロレア取得に奮闘する中年男性という役柄で、お茶目な四苦八苦ぶりが楽しみだ。(瑞)