ウトロー事件で司法機能の欠陥が明るみに。

 12月1日、パリ重罪院での〈ウトロー事件〉の控訴審は、予審以来4年間無実を叫び続けてきた被告6人に無罪の逆転判決を下した。昨年7月の第1審は、児童性的暴行容疑を認めた主犯ティエリ、ミリアム・ドレイ夫婦と隣人夫婦計4人に重罪判決、他の被告13人中、7人に無罪判決を下した。
 2000年暮れ、仏北部ウトロー町に住むドレイ家の長男M(9歳)が、両親が息子3人に性的暴行を繰り返していると保母に打ち明ける。両親と隣人夫婦は逮捕され、兄弟3人は里親に送られる。Mは小児性愛容疑者の名を次々に挙げていった。同じ建物の住人夫婦から看護婦、巡回パン屋のおばさん、タクシーの運転手、同級生の父親マレコ執行吏、少年らを遊ばせてくれたヴィエル司祭、面識のないルグラン親子まで40人におよぶ。〈告発ごっこ〉に他の子供たちも加わる。マレコ執行吏夫婦は自分の息子に、ラヴィエ 夫婦は娘に名を挙げられ、逮捕後拘置所に送られた。そのうちの一人の男性(32歳)は02年6月、拘置所内で自殺。被疑者の子供たち25人が里親に託された。
 ベルギーでのデュトルー小児性愛連続殺人事件の余熱が冷めやらぬ当時、新任のビュルゴ予審判事は「フランス最大の小児性愛犯罪網」と奮い立つ。母親ミリアムは告発する息子らをかばうためか同判事が提示する被疑者の写真と氏名をすべて認める。 同判事は、司法界と心理学界の命題〈子供は嘘をつかない〉を盾に被疑者と証人の対質尋問もせず、予審行程を独走。それを正当化するようにエミルゼ心理鑑定家は被疑者らの容貌に〈性欲過多傾向〉が認められると鑑定している。一方、ルグラン親子の息子の方は「自白すれば釈放される」と予審判事に迫られベルギーでの〈少女殺害事件〉を自白。だが第1審でその事件は物的証拠皆無の作り話であることが判明。ここから予審判事が築き上げた大がかりな小児性愛犯罪網というバベルの塔が崩壊し始める。
 公判半ば、服役中のミリアム・ドレイは「全部ウソです。被告人らはなにもしてません」と衝撃証言。検事長は判決の前日、この裁判は「小さな誤りと司法機能の欠陥、不注意、人間性の欠如などの積み重ね」と司法態勢の失態を全面的に認め、検事長として初めて被告全員の無罪判決を陪審員に願い出る。クレマン法務相は、悲惨な悪夢に突き落とされ、社会的地位も家庭も破壊された無実の人たちに司法機関に代って陳謝し、緊急に予審を合議制にするなど司法制度改革の意向を表明している。(君)

Dico
juge d’instruction
(ジュジュ・ダンストゥリュクシオン 名詞)

 

 フランスでは、重罪院cours d’assisesが扱う重罪crime(無期懲役、懲役、公民権はく奪などに相当する犯罪)は、必ず予審instruction préparatoireを経なければならないことになっている。それを担当するのが予審判事juge d’instructionで、警察のサポートを受けながら証拠調べおよび被疑者の尋問を行い、被疑者を訴追するかどうかの決定を下す。それまでの間、証拠隠滅、逃亡、再犯などを避ける目的で、ほとんどの被疑者が予防拘禁détention préventiveされるが、予審判事の数が不足しているために、この予防拘禁の期間がどんどん延びていることで、さまざまな問題を生んでいる。(真)



 

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