「絵画は終わった。誰がこのプロペラよりも良いものを作れるだろうか?」。1912年、パリで行われた航空見本市を訪ねたマルセル・デュシャンの言葉だ。これは世界初の芸術への終末宣言で、のちにダダの姿で具体化される芸術の危機の予言でもあった。第1次大戦直前にイタリアで生まれた未来派が、工業技術の芽生えを熱狂的に迎えたのとは対照的に、ダダは、野蛮な戦争の不条理を支える近代社会とその文化を完全に拒否したのだった。
1916年、中立国スイス。チューリッヒのある酒場でドイツの亡命詩人・哲学者フ−ゴー・バルが「キャバレー・ヴォルテール」という芸術娯楽クラブを始めた。ここに集まったヨーロッパ各国の亡命芸術家、マルセル・ヤンコ、ハンス・アルプ、トリスタン・ツァラ、リヒャルト・ヒュルゼンベックらは詩を朗読し、歌を歌い、パフォーマンスを披露した。挑発的で時に大混乱となったこのクラブは新しい芸術運動となる。運動の名前「ダダ(幼児語で馬のこと)」は辞書から偶然見つけた言葉だ。
ダダの理想は理想を持たないこと。あらゆる主義の完全なる否定、論理ヘの反逆。「ダダに楯つく時、それがダダ的だ」と彼らは言う。戦争で人々の理想は崩れ、各国の芸術家に同様の精神的傾向があったため、戦後ダダはパリ、ベルリン、ニューヨークなどへ瞬く間に広がった。新聞の切り抜きのコラージュ、道で拾ったがらくたのつなぎ合わせ、4カ月間積もった埃をマン・レイの撮影で写真に残したデュシャンの作品もある。彼はダダ誕生以前から工業規格品をそのままの形で作品とする「レディ・メイド(既製品)」を発表してきたが、「作品を考えついた頭脳の願望以外何も表現していない」作品は、ダダ精神の最たるもののひとつといえる。
戦時中デュシャンと同じくニューヨークにいたピカビアは雑誌「391」を発行した。そこでは「読む」行為を破壊するタイポグラフィーの試みが見られる。文学では言葉から意味を切り離し、音声だけで構成する詩が作られた。ダダは新しい論理で新たな芸術的言語を模索し、ブルジョワ化された芸術のごまかしを曝け出そうとした。彼らがそれ以降の芸術に及ぼした影響の大きさは計り知れない。
展覧会場はチェスボードのように仕切られ、ダダイストたちの多岐にわたる表現方法を個別に見ていくことができる。絵画やデッサン、宣言文、詩、戯曲、映画、タイポグラフィーなど1000点以上の作品、資料が展示されている。大きな展覧会なので丸一日を費やすつもりで訪れたい。(ヤン)
ポンピドゥ・センター。
1月6日迄(火休)。
Galerie GNG
1995年、パリの美術業界が不況の真っ只中にあって、閉店する画廊が相次いだ時期に、あえてオープンしたのが、このGNG画廊だ。困難な時代に始めて、地道に10年続いた秘訣は、オーナーのジル・ノーダンさんの鑑識眼の確かさだ。
長年、フレンチポップスの作曲家として活躍し、数々のレコードを出してきたジルさんは、音楽業界に見切りをつけ、画廊経営という新たな道を選択した。もともと絵は好きで、外国に行った時によく買っていた。
出発点が絵だっただけに、選ぶ作家も画家が多い。常時扱っている作家は約15人。彫刻家、写真家もいる。
「物故作家は扱いません。世に知られていない新進作家ばかりを取り上げています。美術愛好家がコレクションを始めるきっかけになれば」と、ジルさんは話す。値段も、買いやすいよう抑えてあるそうだ。「作家の名前で買う人がいるけれど、無名の作家を見出して、後年その作品が評価されるのを見るのがコレクターの喜び」
12月10日までは、ルーマニア人女性画家の展覧会。無機質の不思議な空間に、男とも女とも子供ともとれる人物がいる。日常の平穏な意識を揺さぶる作品だ。13日からはフランス人写真家の個展が始まる。(羽)
Galerie GNG : 3 rue Visconti 6e
01.4326.6471
●ヴァル・ド・マルヌ現代美術館がオープン
パリ郊外に初めて現代美術館が誕生した。この11月にオープンしたばかりの4000m2の展示スペースには1950年代から今日までのフランスのアートムーブメントを代表する作品が並ぶ。キネティック・アート(ル・パルク、ティンゲリー)、アンフォルメル(スーラージュ)、シュポール/シュルファス(ドゥズーズ、アンタイ)、ヌーヴォー・レアリスム(アルマン、セザール)や、クリスチャン・ボルタンスキー、アネット・メッサジェなど。第1回目の企画展はフィギュラシオン・ナラティヴのアーティスト、ジャック・モノリー展。私的な出来事や社会の惨劇を陰鬱に表現する1965~2002年の絵画、フィルム作品。2/19迄(月休)。
Musee d’Art Contemporain du Val de Marne :
Place de la Lib屍ation 94404 Vitry-sur-Seine
M。Porte de Choisy/バス183番:Moulin de Saquet-Pelletan下車
●Jules PASCIN (1885-1930)
ブルガリア出身、エコール・ド・パリの代表的画家。娼婦や少女を憂鬱で哀愁に満ちたまなざしで描いた。初めてパリに来た1905年からちょうど100年を記念し、3つのギャラリーで回顧展。12/31迄。
Galerie Rambert: 4 rue des Beaux-Arts 6e
Galerie le Minotaure/Galerie Aittouares :
2 rue des Beaux-Arts 6e
●安達武生
石をモチーフにしながらも、浮遊するような重力空間を描き出す。精密で繊細なデッサン。12/8~23。
360。by flower: 32 rue Marius-Aufan
92300 Levallois-Perret
●Indian Summer
インドの現代アーティスト26人の作品。90年代から頭角を表わすニュージェネレーションの彼らは伝統文化とどのように対峙するか。12/31迄(月休)。
国立高等美術学校 : 13 quai Malaquais 6e
●Ron MUECK (1958-)
血管、皺、体毛まで丁寧に作りこまれた、ぬくもりさえ伝わりそうなシリコン製の人間。現実離れした作品の大きさが、見る側を夢想空間に引きずり込む。CGデザイナーのパイオニア、ジョン・マエダ展も同時開催。2/19迄(月休)。
Fondation Cartier: 261 bd Raspail 14e
●Janko DOMSIC (1915-1983)
Zdenek KOSEK (1949-)
鉄道職員として働いたのちパリの屋根裏部屋で人知れず絵を描き続けた Domsicと、精神分裂症を病み人類の救済者と信じて絵を描くKosekの作品。4/24迄(金土日のみ11h-19h)。
abcd, la galerie : 12 rue Voltaire
93100 Montreuil M。 Robespierre