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ピュトー島/
橋の島
ILE DE PUTEAUX / ILE DU PONT
空撮の写真で見るピュトー島は、テニスコートと競技場のスポーツ総合施設だらけ。テニスクラブではフランスのパイオニアのひとつで創立1885年。
20世紀初頭、香水製造場とフラコン工場ができ、その名残が1260本のバラのあるルボディ公園。ピュトー橋から入って下流に進むと、デファンスの存在も忘れて森林浴ができるくらいかなり気持ちいい空間。ピュトー市とヌイイ市を隔てるためなのか(住民も怒っている!)ヌイイ橋に抜ける道がふさがれて、結局ピュトー橋まで戻らなくては出られない。
ヌイイ側の部分は「橋の島」といい、ヌイイ橋から降りるが、(上流側にはなにもない)週末には、向こうに見えるAXAビル側の通りの白い階段元から所狭しとペタンクのおじさんたちが見えてくる。ちょっとマッチョな雰囲気を横目に、島の端まで進むと、デートコースにぴったりのタンプル・ド・ラムールが望めるが、ここに行くには隣島のジャットまで行かねばならない。
◆ SNCF, T2 Puteaux / M。 Pont de Neuilly
超真面目にペタンクする男の人たち。
ジャット島
ILE DE LA JATTE
ジャット島は大ジャット島ともいわれてモネやシスレーの印象派絵画で知られる。上流ヌイイ側先端の隠れ家タンプル・ド・ラムールはロマンチックだが、他はスポーツ場と高級マンションばかり。ビノー大通りを越えるとジョルジュ・スーラ通りに当時の面影を残す居酒屋ダンスホール「ラ・ガンゲット・ド・ヌイイ」がある。古いポスター、ギンガムチェックのナプキン、木のテーブル、日替わり定食…セーヌの petit bras 狭いほう(支流)に突き出すテラスで19世紀末の日曜日のジャット島を想う。並ぶデザイナーズハウスを見るのにも飽きて、川面への急な階段を降りると静かなプロムナードがつづく。柵が無いので子供には向かないが、対岸に並ぶ豪華なペニッシュの生活ぶりに「高そうだ」「管理が大変だ」などと会話も弾む。プロムナードの終わり近くを上がると、ナポレオン3世の狩猟館だった「カフェ・ラ・ジャット」が目の前にある。セレブも来るという要予約のシックなレストラン。
想像していた“シャンペットル(田舎風)”な場所がないのに少しいらだちつつ下流方向へ…
突然雰囲気が変わるのですぐにわかる、花の街ルヴァロワに突入。レストラン「プティ・プセ」を右手に、おしゃれな共同住宅群を抜けるとジャット島公園が市民の憩いの場となっている。市民自ら、冬季に公園に来る鳥たちの餌やりをしたり、公園入口にある「釣りと自然館」では釣り教室もやっているし、公園内には養蜂場もあり自然環境教育に熱心だ。下流方面ルヴァロワ橋を登って右に、オフィス街を進むとメトロ3号線 ポン・ド・ルヴァロワに着く。
◆M。 Pont de Neuilly / Pont de Levallois Becon
Cafe La Jatte 01 47 45 04 20
Le Petit Poucet 01 47 38 20 49
ジャット島下流先端。21世紀の街、恋人たち。
愛のテンプル。
La
Guinguette de Neuilly
12, Bd Georges Seurat
Neuilly-Sur-Seine 01 46 24 25 04
Maison
de la Peche et de la Nature
www.maisondelapeche.net
01 47 57 17 32
ヴァンヌ島 /
サンドニ島
ILE DES VANNES / ILE SAINT-DENIS
上流側Ile des Vannesのサロン会場へ行くにはM。Mairie de St-Ouen駅から徒歩15分くらいだが、共産主義運動も盛んだった、主に労働者の住む街として栄えるサンドニ島の活気ある街へはRERサンドニ駅から。でないとZAC(工場、廃墟地帯)を延々と1時間は歩くことになる。
サンドニ島橋から入ってジュヌヴィリエ側のペニッシュを眺めながら「印象派たちのプロムナード」を下流に沿って行けば、対岸に船修理所が見える。この散歩道は大変美しいサンドニ島公園内へ導き、エピネー橋までつづく。橋を右へ渡ればRERエピネー駅に10分程で着く
◆RER D : St-Denis, RER C : Epinay-sur-Seine)
印象派の散歩道。
対岸ヴィルヌーヴ・ ラ・ギャレンヌの 船修理所。
フルリー島 /
印象派たちの島
(シャトゥ島)
ショセ島 /
ゴティエ島
ILE FLEURIE / ILE DES IMPRESSIONNISTES (ILE DE CHATOU) / ILE DE LA CHAUSSEE / ILE GAUTIER
印象派といえば、ルノワールやシスレーのセーヌ川と島の絵を思い浮かべる。そんな19世紀印象派の主な舞台となったのがこのシャトゥ島、すなわち印象派たちの島。
リュエイユ・マルメゾン駅から徒歩5分でセーヌ上流側に姿を現す「La Fournaise」は、ルノワールの「ボート漕ぎの昼食」の場面になった。今はミュゼとレストランになっている。フルネーズ氏はボート貸し、妻はレストランを切り盛り、娘のアルフォンシーヌは給仕と絵のモデル、画家ドガの恋人でもあった。1837年にはパリ -ルペック間の鉄道も開通し、日曜のパリのブルジョワの憩いの場となっていたシャトゥ島をモデルとした絵画は、写実主義絵画のような働く農民の姿を一掃して、中流階級、都会の余暇の享楽、余裕に溢れた人々を描いた。
シャトゥ派とも称されるフォーヴィズムが生まれた「Maison Levanneur」は、シャトゥの乳製品屋の息子ドラン、そして舟漕ぎが得意なヴラマンクのアトリエ。マネやモーパッサンも訪れた。これらの建物は米資本により美しく蘇ったが、どうも人工的で昔の面影はあまりない。その隣にフルネーズ氏のエスプリを受け継ぐ有志が集まったフランスでも稀な年代物のボート・カヌー修理、復元アトリエがある。ここ「水の駅 La Gare d’eau」から出発するLe Denicheur号はシャトゥ島、ブージヴァル水門までセーヌの水面を走る遊覧船だ。
上流側には延々と続くEDF研究所、その先のフルリー島には9ホールあるゴルフ場があるが利用者以外は立ち入り禁止。シャトゥ橋の下流側は、3月と9月に開催される「Foire à la brocante et aux jambons」古物業者のスタンドが800も立つ古物・ハムフェアで賑わう。会場にはシャトゥ駅から直接行ける。
さらに下流に歩を進めると、自然庭園の木々や芝生が美しい「印象派たちの公園」がある。「草上の昼食」のようなピクニックが似合う。その先のひょうたん型の括れた部分に盛り上がった土手の道は、追い越す自転車にやっと道を譲れるくらい狭く、両サイドのセーヌの水が貨物ペニッシュやボートが通る度にゆらゆら光る。その細道を10分ほど進み木漏れ日と水の反射光を楽しむと、急に広がる土手に当時は居酒屋ガンゲットやテラスや舟貸し屋で賑わったという「La Grenouillere」がある。モネやルノワールの描いたカマンベール(浮き小島)のニセモノはあるが小屋もテラスも跡形もなく、遊覧船デニシュール号が通ったその時だけ、ルノワールの絵画の、色彩に溶けるドレス姿の女性をかすかに想像できた気がした。
当時は草木が生い茂り〈マダガスカル〉と呼称され、男女がまっ裸で川に飛び込むような〈破廉恥な場所〉でもあったというショセ島は、ラ・グルヌイエールの先、散歩道までボールが飛んできたゴルフ場、スポーツ場が続き、ブージヴァル橋に抜ける。橋から先のゴティエ島は高級住宅街で、下流ロッジ島近くの先端の公園へは橋下から左側のプロムナードを行く。
セーヌ沿いのサンドニからサンジェルマン・アン・レイは〈印象派ゆかりの地〉。絵の具がチューブになることで戸外に出て、題材を自由に選び、芸術のモデルニテを確立した印象派は、単に自然の再現を越え、後の象徴派に受け継がれてゆく。
◆RER D : St-Denis, RER A : Rueil-Malmaison
/ Chatou Croissy
Musée Fournaise (mer-dim)
01 34 80 63 22
www.musee-fournaise.com
Restaurant
Fournaise 01 30 71 41 91 www.restaurant-fournaise.fr
ルノワール「ボート漕ぎの朝食」の舞台
ラ・フルネーズ
Sequana (La Gare
d’eau)
毎月第一日曜朝、セーヌに進水する 木製ボートの長さは6m。フランス中から年代物のボート修理の依頼が来る。 www.sequana.org
古物・ハムフェアは ブロカント・ド・シャトゥといわれ有名。
「カマンベール」すれすれに水面を行くLe Dénicheur遊覧舟
7euros
要予約 06.99.24.35.06
ラ・グルヌイエールゴルフ。
錆びとり、ペンキ塗り替え… ペニッシュの管理は大変そうだ。 若者たちの共同の住まい。
ロッジ島
ILE DE LA LOGE
セーヌの水は直径約12mの水車14輪と200のポンプでなる「マルリーのマシン(機械)」に導水されて、ヴェルサイユの庭園泉水や噴水に大量の水を必要としたルイ14世の栄光をさらに輝かせた。この巨大揚水装置「マシン」は“世界第8番目の傑作”と呼ばれ、当時は大騒音を立てて作動していたという。今はセーヌの水位、流量を調節するブージヴァル水門の轟々しい水音にかわり、「マシン」前の橋を渡りきってしまえばロッジ島の静かな高級住宅街となる。
上流方面先端には水門管理所がありその向こうのゴティエ島に、船の行き来や水の動きを眺める人がいる。
17世紀の最新技術「マシン」着工から200年余り経った1873年、パリへ往来する船を通す水門の光景を新様式の印象派画家シスレーがとらえている。
◆ St Germain-en-Layeからバス258番 “La Machine”下車、またはRER C : Louveciennes
“Bateau à l’éluse de Bougival” Sisley 1873
丘頂150mまで川の
水を揚げる「マシン」
2m以上水位のちがう
ブージヴァル水門。
ラボルド島 /
コミューン島
ILE LABORDE / ILE DE LA COMMUNE
コミューン島の対岸メゾン・ラフィットの川沿いの公園には動物がたくさんいる。川には大きな魚も見えるし、ガチョウが芝生を食み、白鳥やカモやネズミが遊び、まだ野放しの自然がたくさんある。セーヌの緑が朝昼夕の陽に姿をかえる印象派の絵画そのもの。
残念ながら、島の下流側一部が公園として公開されているだけで、スポーツ場とキャンプ場、おまけにラボルド島は私有地で 入れない。
対岸すぐ近くの、フランス古典主義建築家マンサール設計のメゾン・ラフィット城や競馬場を訪ねるのもいい。
◆ RER A : Maisons-Laffitte
Château de Maisons-Laffitte
01 39 62 01 49(島内ではありません)
印象派の時代に戻ったようなセーヌ川。
ラボルドの橋から島へは入れない。 自然そのままの印象派の田舎の面影を残す。
獲物をとる大きなねずみ。
(楕円内)うぐい? コイ? 30cmはある。
そばを通る車も 慣れっこのガチョウ。
まるで奈良の鹿のよう。
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今回の島特集では、パリのサンルイ島から下流に向かってメゾン・ラフィット近くまで巡ったが、セーヌ川がル・アーヴル近くの英仏海峡に注ぐまでに、セーヌに浮かぶ島はまだまだたくさんある。
それら全島を見られるパリからル・アーヴルやオンフルールまで行く5日~8日の船旅もある。
www.croisieurope.com (435euros~)www.123croisiere.com (900euros~)