Lieu jaune poche au court-bouillon
昨年に続いて今年も、ブルターニュ地方の西端、フィニステール県の大西洋沖に浮かぶウエサン島で、2週間のバカンスを過ごした。そこで借りた小さな貸別荘の持ち主は、1960年代に日本まで貨物船で何度か行ったことがあるという元船乗りで、魚釣りが何より好きな人だった。
ある朝、新鮮なサラダ菜といっしょに、40センチくらいはありそうな冷凍されたスズキが、新聞紙に包んで置いてあった。これはゆっくり時間をかけて解凍してから、腹に庭に生えていたパセリとタイムを詰め、塩コショウを多めに振りかけて炭火焼きに。釣りたてを冷凍したに違いなく、甘さまで感じられる大満足の味だった。
ある朝は、今釣ったばかりというやはり40センチくらいのlieu jaune(英語ではポラックというタラ科の魚)を2尾も直接届けてくれた。「スズキは一度冷凍した方が身が締まってうまくなると思うなあ。私は、値段が張るだけのスズキより、lieu jauneの方がずっとうまいと思う。シンプルに塩ゆでしてから冷まし、マヨネーズで食べるのがいちばん」
ということだったが、せっかくいただいた魚だから、きちんとクール・ブイヨンと呼ばれるダシを作ってから、ゆでることにした。
魚は、別荘にあったできるだけ底広の鍋に合わせて、頭は切り落とした。その鍋に水を1リットルくらい入れ、白ワインをグラス3杯、薄く輪切りにしたニンジン1本とタマネギ1個、塩大さじ2杯、ビネガー少々、やはりパセリとタイムを2、3枝ずつ加えた。コショウもたっぷりと挽き入れ、中火にかけて沸騰させたら、野菜や香草のうま味をじっくり引き出させるために一度冷ますことが大切だ。
冷めたら魚を重ならないように並べ、中火にかける。沸騰してから1分ほどぐつぐつさせて火を止める。そのままクール・ブイヨンの中で冷ましてから取り出し、大皿にレモンといっしょに盛り付けて食卓へ。
マヨネーズはもちろん手作りがほしい。ワインはムスカデの白でしょう。(真)
●スズキの焼き方
ウエサン島でスズキをプレゼントしてくれたフロックさんは、「スズキはね、うろこをとらずに焼いた方がうまい」という。ボクら日本人は皮が大好きな人種だから、やはりうろこをとってから焼きたいところだが、今回は、フロックさんのいうとおりに、腹に香草を詰めてから、うろこをとらずに庭のバーベキューセットで炭火焼きにしてみた。するとどうだろう…こんがり焼き上げられた皮は、鎧のように固くなったが、中の身はどこまでもふっくらと柔らかく、レモンを搾って頬ばると、素晴らしい風味。皮だって、ちょっとうろこは邪魔だったが美味。この日はしょう油でなく、あくまでもブルターニュ風に、ブルターニュ名産の有塩バターを溶かしてソースにしました。メルシ、ムッシュー・フロック!
●ウエサン島名物
ウエサン島というと、潮風にさらされた草をたっぷり食べた子羊の肉。といっても肉にほとんど塩味はないけれど、とても柔らかい。あとは干した海草で燻されたソーセージ。ジャガイモといっしょに煮込むとうまい。
荒海で囲まれていて、島の周りでの漁はほとんど不可能ということだが、教会前に住んでいる漁師の家の庭に、毎朝魚のスタンドが立つ。
反り返ったまま硬直しているような活きのいいサバmaquereauは、手をかけず、塩焼きがいちばん。カニtourteau、そして時には伊勢エビlangousteもはねていた。これは2キロ近くあり、キロ40ユーロだったので、涙をのんであきらめたが、今になって後悔後悔。小骨がないことでフランス人が愛するアンコウlotteも並ぶが、肝は見あたらない。「どうするんですか?」と聞いたら「水揚げしたとたんに捨ててしまう」。「今度分けてください」と頼んだら、翌々日、大きな塊を2ユーロで譲ってくれた。鍋あるいは酒蒸しにでもしたいところだが、あいにくバカンス先。塩、コショウを振りかけバターでソテー。涙が出そうなうまさだった。
●バカンス先の包丁は?
バカンス中に貸別荘を借り、その土地の名産物でおいしいものを、と張り切っても、貸別荘の台所には切れる包丁がないことが多いので、ボクは、折りたたみナイフ〈オピネル Opinel〉を持参する。刃渡り12センチくらいの12番が使いやすい。折りたたみの刃を収める都合上、手に持つところがやや太すぎるのが難だが、よく切れる。刃を出したら、ぐらつかないようにきちんとブロックしてから調理にかかることが大切だ。ステンレスの刃〈inox〉より鋼の刃〈carbone〉の方が切れ味が鋭い。錆びやすいので洗ったら乾いた布巾でよくぬぐうこと。(真)