●Céline Curiol “Voix sans issue”
新しい本との出会い、新しい作家との出会いには、いつも何か、文字通りCoup de foudreがある。「一目惚れ」という日本語では表現しきれていない何か。タイトルを見た瞬間、表紙をみた時、背表紙を読んだ時、そして昼下がりの人のまばらな本屋で音を出さずとも口を動かしながら最初の1ページを読んだ時に声が響いた時、まさに閃光が走る。
こうして出会った本書は、30歳の女性作家の処女作であった。
主人公の女性はやはり30代で、北駅のアナウンス係。物語は現代のパリで孤独に生きる女性の恋愛物語。恋愛? 確かに女と男が登場する。確かに彼女には恋する男性がいる、が…。三人称で語られるこの小説は、独特な語りで彼女の内面を描く、というより記す。パリの様々な場所、様々な出会いを通して彼女の心理が見られる。心理?否。これは心理小説でもない。あえていえば、心理描写・分析のない心理、主人公の心の中にも入るかもしれないが、彼女が自分で感じることのできないところまでには深入りをしない。繊細で滑らかな語りは、彼女のパリの徘徊に付き添い、彼女の心の動きを追っていく。
この語り、この世界、何かに似ている。フランス小説には似たようなものはないが、これはポール・オースターの作品に似ている。彼の作品で描かれるニューヨークとニューヨーカー、それはこのフランス人新人女流作家セリーヌ・キュリオルの処女作で描かれる、パリとパリジェンヌに通じるものがある。
と、読みながら思っていたら、実際、ポール・オースターがおすすめの作品だった*。同じ出版社が彼の仏訳を出していることもあり、出版社が宣伝にこれを使いすぎ、という感も確かにある。が、大西洋の反対側で同じ響きをもったエクリチュールに出会った喜びは真のものだ。
この先が大いに期待される小説家、そしてこの夏の読書におすすめの作品だ。(樫)
*Paul Auster “Un coup de foudre litteraire”
Lire, mai 2005.(HPで閲覧可。www.lire.fr)