たかが絨毯、とばかにするなかれ。エジプト、トルコ、ペルシャ(イラン)の絨毯最盛期(16-17世紀)の逸品56点を、ニューヨークのメトロポリタン美術館、ベルリンのイスラム文化美術館やロンドンのビクトリア&アルバート美術館などから集めた豪華な展覧会だ。 そもそも絨毯は、身分の高い、教養ある人たちのものだった。中世アラブ世界の哲学者アル・ファーラービーや、哲学者で医者だったイブン・シーナ(別名アビセンナ)の思想の影響を受けて織られた絨毯は、光に満ちた天空を再現したものだった。 「絨毯の中の天空」というタイトルは、ここから来ている。絨毯に必ず現れる四角い縁取りを窓枠とすれば、中の模様は窓から眺めた空に見立てることができる。その空に現れているのは、すべてが有機的に結びついた精緻な宇宙だ。複雑に伸びる線や形も、よく見れば単純だ。それが無数に広がって、複雑だが秩序だった世界を形成している。絨毯はそれ自体が小宇宙なのだ。幾何学的、抽象的な模様であればあるほど、地上を離れて、より宇宙的なイメージになる。 華やかな縁取りは、その宇宙を限られた空間に限定して織り込み、愛でるための約束事なのかもしれない。そうした絨毯をいくつも見ているうちに、絨毯はイスラム世界の曼荼羅だ、と思う。 絨毯は家やテントの中で使うものである。床に敷くものに天空を現すことで、天の輝きが地上に降ろされるという、象徴的で宗教的な意味もあったようだ。 モチーフの傾向は、1/幾何学模様、2/中央に大きな環があるもの、3/植物模様の三つに分けられる。大きな環は、雪の結晶や細胞のようにも見える。16世紀になると、トルコでもペルシャでも、植物の図柄が出てくる。最後の55番の絨毯では花と穂が渦を巻いて、形而上的な天空とは違った、地上の装飾的な美しさがある。 大きく傾向が違うのは、屋根付きの家が描かれた絨毯で、葬儀や祈りの時に使われた。葬儀の絨毯の真ん中には墓がある。シンプルな表現が、他の複雑な絨毯の中で異彩を放っている。(羽)
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Tapis a medaillon central, Perse du Nord-Ouest, vers 1700. Chaine en laine, trame en laine, velours en laine, noeuds persans. Ham, The Keir Collection Ph. A.C. Cooper
Institut du Monde Arabe : 1 rue des Fossees-St-Bernard 5e |
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Galerie Untitled サン・ルイ島にしっとりとたたずむ17世紀の館の中庭の奥、昨年10月にオープンしたばかりのギャラリーがある。オーナーはナディーヌ&トム母子。20年間高校教師だったナディーヌさんとコンピュータ技師だったトムさんが、軽やかなアート空間を生み出した。定期的に開催する企画展のほか、フランス人デザイナー、アントワーヌ・レイモンの家具を常設展示。そして、新旧のデザインが心地よくフュージョンするカラフルなテーブルの上には、小さなメニューが置かれている。 実はここはティーサロンでもある。以前ふたりがニューヨークのギャラリーめぐりをした時に、疲れた脚を、やっとのことで見つけたティーサロン(ジャパニーズだった!)で癒した思い出が、ギャラリー&ティーサロンを生むきっかけになった。〈グッゲンハイム〉、〈ウォーホール〉、〈バスキア〉などと名付けられたケーキはナディーヌさんの作品だ。毎日奥の厨房で腕を振るっている。歩み出したばかり、アートと人生を愛するふたりのギャラリーだ。(仙) |
51 rue St-louis en l’Ile 4e 08 7109 8755 月休。 *セルビア人アーティストMiroljub STAMENKOVIC展。2/8-4/3迄。 |
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●Julio GONZALEZ (1876-1942) バルセロナで彫金師だったゴンサレス。画家を目指し1904年移住したパリでピカソと出会う。1920年代以降、デクパージュやアサンブラージュで形体を再構成し、鉄材を用いて制作した彫刻作品は立体表現の伝統を一新した。現代彫刻の祖ともいえる作品を数多く残した彫刻家。2/21迄(火休)。 マイヨール美術館 Musee Maillol : 61 rue de Grenelle 7e ●Maurizio NANNUCCI (1939-) ●Le destin de Kullervo ●De ma fentre, des artistes et leurs territoires ●Jean HELION (1904-1987) ●Claude Rutault 現代アーティストを招いての企画展シリーズ。第2回目は1970年代から芸術の実在性を問い続けるクロード・リュトー(1941-)。〈Les Toiles et l’archer〉と題し、美術館全体に無地のタブローを点在させ、彫刻と絵画の関係を探究する。3/15迄(月休)。 ブールデル美術館 : 16 rue Antoine-Bourdelle 15e |
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