モネ(1840-1926)とホイッスラー(1834-1903)という、印象派の二人の画家の交流と、彼らに与えたターナー(1775-1851)の影響をテーマにした、国際巡回展覧会。トロントのオンタリオ美術館で6月に開幕し、パリの後は、2月にロンドンのテート・ブリテン(旧テート・ギャラリー)に移動する。
日本人には馴染み深い印象派。いまさらモネを見なくても、と思う人もいるだろうが、ターナー、ホイッスラーとの比較を通して、これまで気がつかなかったモネの側面が発見できる。
1870-71年、普仏戦争から逃れるため、ロンドンに居をすえたモネは、ナショナル・ギャラリーで初めてターナーの作品を目にする。一方、パリでの画家修行時代を経て、1859年からロンドンに移住していたアメリカ人のホイッスラーも、ターナーに魅せられていた。
1872-73年、モネは「印象・日の出」を描く。「印象派」の名称がここから付けられた、記念すべき作品だ。これが、日没を描いたターナーの作品にそっくり。会場では2作が隣り合わせに展示されているから、じっくり見比べてほしい。
ホイッスラーもモネも、モチーフや色など、技術的な点では確かにターナーから学んだが、3人の間には、資質の違いとしかいいようのないものが横たわっている。見る側にとって、モネの絵とターナーの絵では、絵を見るときに使う脳の部分が違う。ターナーの絵を見ていると、頭のてっぺんに近いところが開く感覚がある。生も死も一つになった、めくるめく恍惚感がある。モネは、ターナーの精神性に比べると地上的で、その詩情も現実的だ。モネには、マチスにも通じる、フランス的な「生きる喜び」がある。植物も水も建物も輝いて、この世の生を謳っている。一方、浮世絵の影響がより顕著なホイッスラーにあるのは、メランコリックで装飾的な平面の美だ。
会場には、水辺を描いた作品が多い。モネの絵で、水は水のまま光と混じる。ターナーでは水面と空の境が開いていて、水は渦を巻いて空に舞い上がる。天と地が一体となったエネルギーの交歓がある。ホイッスラーの作品では、水と空は土地や建物ではっきり区切られて、二つのあいだに交流はない。その分、画面の半分以上を占める河の暗い沈黙の中に、さまざまな生を運んで流れてゆく水の重さが感じられる。
ターナーから学んだ二人の画家が、ターナーの影響うんぬんの批評を寄せつけないほどに独自の世界を確立したことは、最後の2室ではっきりわかる。『ロンドンの国会議事堂』シリーズ(1903-04)には、モネ独特の色と光の恍惚がある。(羽)
モネの『ロンドンの国会議事堂』シリーズの一点。
Turner
グランパレ:1月17日迄(火休)
10h-20h(水22h迄、10h-13hは予約者のみ)
Galerie maisonneuve
2002年にオープンしたこのギャラリーは、パリの端っこ20区の事務所や倉庫が同居する殺風景なビルの6階にある。ニューヨークならありそうなシチュエーションだが、パリでは場所を知ってもらうのに最初は苦労したそうだ。でも今では美術関係者やコレクター、外国からも見に来てくれる人がいる。オーナーのグレゴワール・メゾンヌーヴさんが興味を持つのは、商業的な匂いのしない、ほかでは見たことのないような作品。素材、技法にはとらわれない。
最近はアルベルト・ソルベッリの、娼婦のような扮装でモナリザ脇で写真撮影したパフォーマンスの資料とそれに附随して起きた訴訟の書類を展示したものがプレスで話題になっていた。また昨年はギャラリーを派手なラブ・ホテルにしつらえるというロタ・カストロのインスタレーションを公開。閉館後希望者に展示室をホテルとして貸し出したのだという。一歩離れたところから冷静に状況を観察しているような作品が、ギャラリスト自身に重なる。(仙)
24-32 rue des Amandiers 20e
01.4366.2399 日月休
*1月半ばまでギャラリー所属アーティストのグループ展。
●Bernd & Hilla BECHER
1959年以来工場や溶鉱炉、給水塔などの匿名的な建築物を写真で採取し、類型に分類してきたベルント、ヒラ・ベッヒャー夫妻。透徹した客観性で産業建築を純粋な形体に還元すると同時に、技術者たちのはかない創造物をモニュメントとして残している。
1/3迄(火休)。
ポンピドゥ・センター
●LE CORBUSIER (1887-1965)
画家として芸術活動を始め建築家として評価を得るが、その後も決して絵画を放棄しようとしなかったル・コルビュジエの油彩、デッサンなど。1/15迄。
Galerie Zlotowski: 20 rue de Seine 6e
●Central Station, collection Harald
Falckenberg
ハンブルグに個人美術館を持つ資産家ハラルド・ファルケンベルグの3000点にものぼる現代美術コレクションの中から150点。トーマス・ヒルシュホルン、ヴルフガング・ティルマンスほか。1/23迄(月火休)。
La Maison Rouge : 10 bd de la Bastille 12e
●Lumieres de soie
東洋テキスタイル研究所の創設者クリシュナ・リブーがギメ美術館に遺贈した素晴らしいコレクションを展示。インド、中国、日本、インドネシアの金糸を用いた絹織物。2/7迄(火休)。
ギメ美術館 : 6 place d’Iena 16e
●Contrepoint
ルーヴル美術館所蔵作品と、ゲイリー・ヒル、クリスチャン・ボルタンスキーら10人の現代アーティストとの時を越えた対話。現在から過去へ彼らはどのようにアプローチするのか?2/10迄(火休)。
ルーヴル美術館
●Louise BOURGEOIS (1911-)
2003年制作の “La Reparation” や”The Laws of Nature” など、ルイーズ・ブルジョワの近作版画約30点を集める。2/12迄(日月休)。
Galerie Karsten Greve : 5 rue Debelleyme 3e
●Raymond DEPARDON (1942-)
リオデジャネイロ、東京、カイロ、アディス・アベバ…。写真・映像作家ドゥパルドンが世界7都市で撮影した写真とフィルム。2/27迄(月休)。
Fondation Cartier : 261 bd Raspail 14e
●スギモト・ヒロシ (1948-)
19世紀の工業機器や幾何学的なオブジェを神秘的な形体に昇華させた写真作品。2/27迄(月休)。
Fondation Cartier 261 bd. Raspail 14e