彼女は独り、刺繍が救い。”Brodeuses”

 『Brodeuses 刺繍する女』は、良い映画を観たな~、と満足感に浸れる作品だ。17歳で身ごもってしまったクレールが、さあどうやって生きていこうかと、それだけの物語なのだが、そこにいろんなことが詰まっている。
 実家を出てスーパーのレジ係として生計を立てながら独り暮らしをするクレール。アクシデントで妊娠してしまったことに気付いた時は、もうお腹が出始めていた。打ち明けられるのは、リヨンで高等師範学校への入学準備をしている親友のリュシルだけ。だが彼女もめったに実家に戻らない。お腹の赤ん坊の父親、スーパーの同僚、実家の弟と母親、と彼女を取り巻く人たちとの距離感がとてもリアル、要するに彼女は独りなのである。お腹の子は産んですぐに養子に出すことにしたものの、わだかまりを抱えた日々が過ぎる。ただ彼女には刺繍という情熱をかけられる対象がある。それが救いだ。思い切ってマダム・メリキアンへ会いに行くクレール。彼女は、パリのオートクチュールから仕事を受けたりしているプロの刺繍師。しかし彼女も一人息子をバイク事故で亡くしたばかりで神経衰弱気味。そんなハンディを抱えた女性二人が少しずつ相手を信頼し始め、刺繍の師と弟子として結束してゆく過程が映画の中心となる。
 監督は新人のエレオノール・フォーシェ。主演のローラ・ネマルクも新人。豊かな赤毛とソバカス顔が印象的だ。マダム・メリキアン役にはアリアンヌ・アスカリッド。ロベール・ゲディギアン以外の映画で見る彼女もオツなものだ。
 クレールは若いから何か確信があるわけではないけど、へこたれない根性があるし、やっぱり人生、パッション(情熱を捧げる対象)を持ってるのは大きな強味だ。みんなパッションを持とう!(吉)

●Manifesto
 地方巡業中の小さな劇団は、TV界の若い男優を主役に迎える。彼は劇団側に、舞台上で戦争反対の宣言をすることを提案。その意味をよく知らぬままに…。2003年、スペインでは多くの文化人らが公の場でイラク戦争に異を唱え、世論は激しく乱れた。そんな背景から、ホアキン・オリストレル監督は、「アーティストの政治参加」という新しい視点を映画に持ち込み、戦火から遠く離れたスペインの、誠実で等身大の反戦映画に仕上げてみせた。限定された舞台装置の中で、嫉妬、恐怖、歓喜、混乱など、あらゆる凝縮された感情が、役者4人を通して火花を散らし交錯していく様が圧倒的。地味ながらも、最近の作品では、最も心にしみ入った1本。(瑞)