今年94歳のフランス人抽象画家、オーレリー・ヌムールの一大回顧展が、ポンピドゥ・センターで開催されている。 ルーヴルの美術学校で、美術史という知的理解から絵画に入ったヌムールは、卒業後、実践を目指して、ポスターで有名なグラフィック作家、ポール・コランに師事した。第2次大戦対戦中は、アンドレ・ロートのアカデミーに登録。また、レジェからも学んだが、いずれの師匠も抽象絵画とは無縁だった。しかし、「モデルを描いているうちに、モデルの形が消えていった」というヌムールが抽象に進むのは、自然のなりゆきだった。 商業的成功や世間的な名声からは、長いあいだ縁がなかった。画家として知名度を得たのはかなり遅く、80年代になってから。しかも、先に認めたのはドイツやスイスで、フランスでは、10年前までは一部の愛好家にしか知られていなかった。 知的な作家だが、知性が出しゃばっていない。作品からは、踊るようなエネルギーや、意識の深いところにある根源的なもの、そして求道者のような精神性が感じられる。 50年代のシリーズ “Demeure” は、パステルで表された黒と白の世界。黒の中にある別の黒の空間が、瞑想中に浮かび出る思考の重なりを想起させる。 1959年に始まった”Au commencement”は、天地ができたころから始まって、単純なものからより複雑な生命体へ分化する様子がシリーズで描かれているかのようだ。 時と、空間と、動きと音も表現されている。”Espace-temps I”(1961)では、緑と真紅の「時」が出会っているが、二つの「時」は完全に合うことはない。対峙したままだが、そこに緊張はない。 ”Vigile”(1968)からは、ピアノの四重奏が聞こえてくる。”Translation I”(1968)には、高音と低音の対比がある。「形の前にリズムがある」とヌムールは言うが、リズムだけでなく音楽が聞こえる絵には、なかなか出会えないものだ。 この展覧会からは、大きなエネルギーがもらえる。できれば一人で、連れと行くならあまりしゃべらず、一対一でじっくりと作品と向き合ってほしい。(羽) |
La Vierge, 1969 Collection particuliere, Paris Photo : Jean-Claude Planchet, Centre Pompidou C: Adagp, Paris 2004 ポンピドゥ・センター:9月27日迄(火休)
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Maison rouge バスチーユ大通りはセーヌ川寄りに6月上旬、アントワーヌ・ドガルベール財団の新アート空間 Maison rouge がオープンした。 カルフールチェーンの相続人の一人、ドガルベール氏は1987年から97年までグルノーブルで画廊を営んでいた。今日、美術品を売る必要のない彼は、元工場跡を買い取り、現代アーティストとの「掛け橋」とすべく2000m2の空間を創り出した。中央に残っていた一軒家の外壁を真っ赤に塗り、全館を「メゾン・ルージュ」と名付けた。赤い家を取りまく広い展示スペースのほかカフェや書店もあるバスチーユらしいアート空間だ。 企画展第1弾は “L’intime, le col-lectionneur derriere la porte”(インチメイト、扉の後ろにコレクター)。この企画に賛同した15人の居間や玄関、WC、浴室、寝室、屋根裏など住居の一部を再現し、そこにある絵画やオブジェ、本などから所有者の趣向や知的世界を他人の目にさらすという試み。(君)
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入場料 6e/3.50e |
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●Francis BACON (1909-1992) 人間存在の孤独と不安を感じさせる極度にデフォルメされた人物像を描き出したフランシス・ベーコン。最初に注目された「磔刑」のテーマや、ベラスケスの作品をもとに制作した「法王イノセント10世」のシリーズなど。8/15迄(火休) Musee Maillol : 59-60 rue de Grenelle 7e ●Bruno PEINADO (1970-) ●Parade ●Johan Barthold JONGKIND (1819-1891) ●Emile GALLE (1846-1904) ●LVMH本社のアート ●Pierre ALECHINSKY (1927-) ●Resonances |
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