最近観た映画の中ではレイモン・ドゥパルドンの『10e Chambre, Instants d’audiences / 第10簡易裁判所』が抜群に面白かった。生半可なフィクションよりドキュメンタリー系の作品の方に惹かれる今日このごろである。 同監督は94年にも『Delits flagrants / 現行犯』で、本作に似た試みをしている。この時は、軽犯罪でしょっぴかれてきた人たちを追いかけた。検事との会話、弁護士とのやりとり、その場で釈放される者、留置所どまりとなる者…まあ10年前に観た映画なので、詳細は不確かだが、本作品と同質の面白さを堪能したことは記憶している。今回はパリの簡易裁判所の一室にカメラを据えた。もちろん特別許可が下りて、被写体となる人たちの承諾があって初めて成立した作品である。 ちょっと飲み過ぎてアルコールテストに引っかかった婦人、女性の交通取締官に罵声を浴びせた男性、刃物所持で捕まったインテリ風な男は弁護士を立てずに裁判官と渡り合おうと意気込み、万引きの常習犯は涙ながらの大芝居を打つ。パスポートもない不法滞在者もいれば、銃を放って捕まったクスリをやってた男は今とても神妙に更正を誓う…。全部で12件のちょっとした事件が、次から次へと裁かれていく。不平を含んだ言い訳に、本当に反省してるのかと迫る検事、理屈にならない理屈を理屈にしようとする弁護士、すべてを仕切る女性裁判長の手際はお見事。判例から世相も浮かび上がるし、法律をいかに適用するのかという裁判の仕組みにも感心するが、やはり一番面白いのは人間だ。ある意味、覗き見趣味的ではあるものの、やはり人間ウオッチングを超える面白さはない。映画とは、とどのつまりが角度や視点を変えた人間ウオッチングなのだし…。(吉) |
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●Philippe Garrel, l’enfant secret de la modernite
伝説を十字架のように背負った孤高の作家フィリップ・ガレルのレトロスペクティブが開催中だ。代表作『ギターはもう聞こえない』、『内なる傷痕』など、ニコとの直接あるいは間接的共同作品群の美しさに浸るもよし。「ゴダールの再来」と騒がれた十代の頃の作品『Les Enfants d市accord市』など初期の映画を発見するのもよし。ジーン・セバーグ、アンヌ・ヴィアゼムスキー、カトリーヌ・ドヌーヴなど、映画のミューズに注がれた視線をなぞってみるのもよし。(瑞) |
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D V D ●Combat sans code d’honneur (Wild Side Video) 深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズ第一作と『仁義の墓場』が、DVD2枚組になってフランスで発売。 『仁義なき戦い』は、山守組と土居組の葛藤が、敗戦直後の広島、呉を舞台に生々しく描かれる。手持ちカメラの荒々しい映像でキャッチされる暴力の激しさ。血気走った主役を演じる菅原文太のニヒルな表情は、ボクらの心に焼き付いた。脇役の梅宮辰夫や金子信雄も存在感十分。 『仁義の墓場』は、やはり戦後の混乱の中、やくざの掟も無視して殺人を繰り返した石川力夫(渡哲也)の実録もの。関東所払いになった石川が娼婦(芹明香)とヘロインとセックスに溺れていくシーンや、亡くなった妻(多岐川裕美)の遺骨をかじりながら親分に金をせびるシーンなど、石川流のひたむきさを、同じく水戸に生まれた深作は、兄貴に捧げるレクイエムのような哀切さを込めて描いている。(真) |
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