サーカス学校2年生のヨアンヌくんは
ヌーボー・シルクのアーティストを目指している。
僕はヨアンヌ、22歳。お父さんが体育の先生だったから小さいころから、柔道、サッカーに始まり、トライアスロン、BMXレースまでいろんなスポーツを経験したよ。高校生の時に親友がサーカスに夢中になり、一緒にその真似ごとを始めたんだ。毎日練習したから学校も行かなくなって、バカロレアも受けるのをやめた。
それからサーカスの準備学校に2年通い、国立の2年制のサーカス学校ENACR*に入学した。そこの2週間の研修では最初100人いても、最終的に残ったのは15人くらい。入学したって最後まで残るのは半分くらいだよ。ENACRの後は3年制のCNAC**に入る。CNACを卒業できれば、サーカスの世界で問題なく仕事にありつくことができるんだ。
学校では午前の4時間、専門科目の練習にあてられる。僕の専門はジョングラージュ(曲投げ)。午後は芸術史や演劇その他の分析などのテオリーだけでなく、英語、音楽、数学、科学に加え、歌やダンスの授業もあって幅広い。ジョングラージュの授業に専門の先生はいないけど、例えばダンサーが空間をどう使うかを指導してくれたりするのが面白い。充実しているけど、先月学校の生徒が空中ブランコの練習中、安全装置が外れて死亡するという事故があったばかり。常に危険と隣り合わせだね。
最近の流行りは現代ダンスとサーカスの融合。他のアートとの結びつきが強いのは、初期にヌーボー・シルクを広めたグループである “Cirque Plume” がもともとがミュージシャンで、”Cirque Baroque”が劇団の人たちだったということが象徴的だね。ヌーボー・シルクの魅力は、まだ新しい分野だから未開拓の部分がたくさんあるのがいい。でも他の分野に寄り掛かっているだけに、サーカスとしてのアイデンティティーを提示するのが難しいのも問題さ。
好きなアーティストはジョアンヌ・ルギレルム、マチュラン・ボルズ、カミーユ・ボワテル。いずれは自分の好きなカンパニーに入るか、友人と一緒にカンパニーを作りたい。もうすぐジェローム・トーマスのカンパニーのオーディションを受けるつもり。でも自分一人でシュット(落下)の動きをテーマにしたショーも独創したいんだ。(瑞)* Ecole Nationale des Arts du Cirque de Rosny-sous-Bois
**Centre National des Arts du Cirque de Chalons-en-
Champagne
Johann Le Guillerm
ジョアンヌ・ルギレルムは、ヌーボー・シルク界が誇る21世紀の軽業師だ。1985年に国立のサーカス学校CNACが門戸を開き、第一期生として入学。当時同校には伝統的なサーカス出身の先生が多く、「将来何がやりたいかはっきりわからなかったが、彼らの影響は受けたくない」と思っていたという。学校と並行して、彼が「父」と呼ぶ、エニー・クレネルに師事。96年には国内のサーカスコンクールでグランプリ受賞。CNACの同期生と “Cirque O” を結成するが分裂。後に彼自身のカンパニー “Cirque ici” を立ち上げる。彼の自作自演の作品『Ou ca?』は高い評価を受ける。
99年、奨学金を受け一年間世界旅行へ。傷痍軍人、目の不自由な人、暴行を受けた子どもたちなど、心や体にハンディキャップを持つ人々と交流。以後、それらの経験が彼の作品に色濃く反映されることに。計算された一挙一動で世界の不安や恐怖、人間愛までも表現する希有のアーティストとなった。彼の最新作『Secret』は、今年のアヴィニョン演劇フェスティバルと、来春ラ・ヴィレットにて公演予定。彼の世界に時代が追い付けるのは、もうすぐのこと。