昨年秋、エニュレ前研究担当相が国立研究機関所属の研究者550人の雇用契約を臨時雇用(CDD)に変え、研究所やラボラトリーの活性化を計ると発表した。これを「頭脳への宣戦(la guerre a l’intelligence)」ととったコシャン研究所やキュリー、パストゥール研究所の生物学者らが1月、サイトで「研究を救おう(Sauvons la recherche!)」と署名運動を開始した。2月には文化情報誌”Les Inrockuptibles” が芸術家や弁護士、教授らにも連帯闘争を呼びかけ、署名は数週間で6万に。全国デモも数回繰り広げられる。 安月給に甘んじる研究者や助手たちの経済的不安と設備不足を直視しない政府の、口先だけの予算増加案と緊縮政策のくり返しに怒りを爆発させた約3000人の所長たちが辞表を突きつけるまでに発展。 フランスでは毎年約1万人の博士が生まれている。そのうちの約550人が国立科学研 究センター(CNRS)や国立衛生医学研究所(INSERM)の採用試験に受かり、約3000人が大学教員兼研究者に。残る数千人の博士課程修了者はどこで研究を続けたらいいのか。仏経団連MEDEFのセイエール総裁が「研究は開発に結びつかないかぎり意味がない」と言い切っているように、フランスの民間企業は生産に結びつく応用科学には投資するが、直接利益を生まない基礎研究は見向きもしないというのが現実だ。民間企業の研究投資額は国内総生産の1.2%に過ぎない(米国はその20倍)。日米でいう産学共同研究は存在してないから、政府も研究予算を削りに削ってきたのでは。 例えばCNRSの正規研究者になれば、35歳位から定年まで象牙の塔で公務員研究者でいられるわけだが、それに受かるのは2、30人に一人。自国で浮かばれない若い研究者が5、6倍の報酬を保証するアメリカになびくのは当然だ。毎年米国に渡る仏人研究者は約600人、そのうち75%は現地に定住してしまう。博士に仕立てあげるまで国家は一人あたり約100万ユーロを注ぎ込んだあげく彼らを経済的に保持できず、みすみすアメリカに実を摘まれているわけだ。 金欠財政により研究市場で後進国化するフランスの危機を前にフィヨン新教育・研究相は、550人の研究者を正規雇用にし、教員・研究者1000人の増員も約束し彼らの怒りをひとまず鎮めたよう。が、研究機関と大学との壁を取り払い風通しをよくすることこそ緊急を要しているのでは。(君) |
各国の研究者数 (就労人口1000人につき) フィンランド13.08 日本9.26 スウェーデン9.10 米国8.08 ベルギー6.95 ドイツ6.45 フランス6.20 英国5.49 (EU委02年度資料)
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