先月の地方選挙での左派勢力の圧勝を受けて新たな転換期をむかえるフランス、5月に25カ国に拡大されるヨーロッパ、緊迫が絶え間ない中近東情勢、そして、11月に大統領選挙が行われるアメリカ。文字通り変動する世界。本書は、この先の変動する世界の行方を探ろうと試みる。 表題には、「アメリカ・システムの解体(邦訳では崩壊とあるが、解体という方が正しいだろう)」とあるが、問題とされるのはアメリカだけではない。アメリカの世界に対する影響力は大きいが、アメリカに対する世界の影響力も大きい。本書で描かれるのは壮大な世界の構成である。著者の説は、新しい世界構成は、アメリカのシステムの解体とそれを引き起こし追随する世界の再構築からなるというものである。ヨーロッパ、ロシア、そして日本の担う役割や重要さも記される。日本に関していえば、日本は、「その気になれば、15年でアメリカに相当する、あるいはそれ以上の技術をもつ軍事大国になることも可能」、国連の常任理事国になることは世界の均衡をもたらす、などの説が提示されている。 単に一個人である著者の意見が連ねられているだけではない。人類学や人口統計学、歴史に通ずる著者は、出生率、文盲率などの数字から、そしてグローバルな社会・歴史的視野から、現在の混沌とする状況が分析される。ここで簡単に本書のさまざまな説をまとめることはできないが、単なるアンチ・アメリカでもアンチ・ブッシュでもなく、洞察力に満ちた明敏な世界観が提示されている。 初版は2002年に出版されたが、今回の文庫版での再版で加えられた後書きにもあるように、イラク戦争の勃発は本書の明敏さを裏付けした形になった。今後、どこまで本書で提示されている動きが現実となるかは確かではないが、本書は、フランスやヨーロッパ、アメリカ、そして日本の将来を見極めるまではいかなくとも、かいま見るためのよい道標となるだろう。(樫) |
Emmanuel Todd 『帝国以後—アメリカ・システムの崩壊』 |
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