4日1日、わたしはオデオンに向かう地下鉄に乗っていた。シャトレ駅で乗り込んできたかなりの人の中に、グレーの背広にアタッシュケース、50代の頭の上部がつるつるのインテリ風紳士がいた。彼の背後に7、8人の女性が立っている。
この紳士の背中の真ん中に15センチくらいの紙の魚がセロテープで貼ってあるではないか。ピンク色の尾ひれをつけ、いたずらっぽい目つきのPoisson d’Avril。前号のオヴニーの表紙にのっていた魚でないことはたしか。
背中にぶらさがっている魚のことをだれが紳士に知らせるのか、それとも黙りとおすのか、それではいじわるすぎる。わたしはいてもたってもいられない気持ちになり、でももしわたしが紳士に近づいて知らせたら、この人たちの楽しみをくじいてしまう?
他の国ではエイプリルフールというのに、どうしてこの日にフランスでは魚が出てくるのだろう。ギリシャ時代にさかのぼるとも、16世紀まで4月1日が年始めだったのでこの日を祝う習わしだったとも、カレーム(四旬節)の間は肉を食べてはいけないので、春到来の日に魚で間に合わせたからとも、これといった説はない。
こんなことを考えながら、オデオン駅に降りてから、わたしは数分おきに自分の背中が気になってしようがなかった。(サバ)